クリフォード・ブラウンはライオネル・ハンプトン楽団のヨーロッパ公演に参加した後、戻ったアメリカにおいて、アート・ブレイキーを中心に開催された歴史に残るライヴに参加します。「バードランドの夜」がそれです。ここでブラウンの知名度は一気に上昇します。

 ほどなくブラウンはドラマーのマックス・ローチとともにクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットを結成します。まだこの時にはブラウンは24歳なのに、結果的にはこのローチとの活動がブラウンの生涯の頂点となってしまいました。本当に残念な話です。

 ローチはブラウンよりも6歳ほど年長で、すでにチャーリー・パーカーやチャールズ・ミンガスなどビ・バップのオールスターが参加したアルバム「ジャズ・アット・マッセイ・ホール」に参加するなど、ビ・バップの世界では名の知れた存在なのでした。

 ローチはブラウンとすでに面識がありましたが、クインテットに誘うにあたって、ブレイキーと演奏するブラウンのライヴを見に行ったそうです。成長したブラウンの姿を目の前にして、興奮したことでしょう。思惑どおり、このクインテットはジャズ史に残る演奏を残します。

 クインテットの初録音は1954年4月のことでしたが、同年8月に収録された本作品「ブラウン・アンド・ローチ・インコーポレイテッド」とはブラウンとローチ以外のメンバーが全員入れ替わっています。まことにジャズらしい自由自在さがいいですね。

 本作品は1954年8月2日、3日、5日、6日にスタジオで収録した楽曲7曲からなります。なお、同時に録音した他の曲がしばしば傑作と言われる「クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ」を構成していますから話は何だかややこしいです。

 しかも後者は本作品よりも早く10インチLPで発表され、本作品の後に曲を加えて12インチのアルバムとして再発表されています。どちらが先なのかややこしいので、二つのアルバムを二枚組として鑑賞するのが本当のところはよいと思われます。

 本作品のクインテットですが、ブラウンのトランペット、ローチのドラムに加えて、テナー・サックスにハロルド・ランド、ピアノにリッチー・パウエル、ベースにジョージ・モロウの布陣です。ランドの名前はイエスのデビュー作の曲名に出てきます。面白いですね。

 さすがにローチのドラムは凄いです。みんなが大人しくブラウンの伴奏に徹していたパリでのセッションとはまるで異なります。パリ・セッションが1950年代半ばのいわゆるジャズを記号的に演奏していたのに対し、こちらはジャズ史を作り上げた個性あふれる演奏です。

 どかどか追い立てるようなローチのドラムを得て、ブラウンも一心に真剣勝負をきめています。ブラウンのトランペットの太い音色がとにかくかっこいいです。トランペットは唇や口の構造によって出る音が違うといいますが、ブラウンの音色はとても豊かです。

 「クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ」の影に隠れてしまってあまり取りざたされることがないのが残念ですが、実質二枚組ですから、こちらも当然傑作であります。まあ貴重なブラウンのトランペットが聴ける作品はすべて傑作ではあるのですが。

Brown and Roach Incorporated / Brown and Roach Incorporated (1955 Emarcy)



Tracks:
01. Sweet Clifford
02. I Don't Stand A Ghost Of A Chance With You
03. Stompin' At The Savoy
04. I'll String Along With You
05. Mildama
06. Darn That Dream
07. I Get A Kick Out Of You

Personnel:
Clifford Brown : trumpet
Harold Land : tenor sax
Richie Powell : piano
George Morrow : bass
Max Roach : drums