ディープ・パープルはハード・ロックの勇者です。私のパープル初体験はNHKのヤング・ミュージック・ショーでした。ギターを歯で弾いたりするリッチー・ブラックモアはカリスマでしたし、イアン・ギランのシャウトするボーカルは、洋楽を聴き始めたばかりの私の驚きたるや。

 これは聴かねばならないと、まだ中学生だった私はなけなしのおこづかいを握りしめて、地元のタチバナ・レコード店に走っていき、たまたま店に合った唯一のパープルのレコードだったこの作品を、いささかのの疑問も抱かず、買って帰りますと…。

 あれっ、あれっ、おかしいなと思う間にA面は終わり、B面に至ると、「シールド」とか「聖なる歌」が出てきて、「なんじゃこりゃあ!」と、思わずステレオをひっくり返しそうになりました。可哀そうな私。異次元の体験が別の異次元に着地してしまいました。

 それもそのはず、テレビはハード・ロック路線に転じた第二期、こちらはサイケデリックな第一期、全然違いました。ところが、さすがは中学生です。LPは貴重ですから、気を取り直して一生懸命聴きました。その結果、私は第二期以降よりも、この第一期が好きになりました。

 このアルバムは、前作からのシングル曲「ハッシュ」がミリオン・セラーを目前にする大ヒットとなったことから、米国テトラグラマトン・レーベルが、25万ドルもの大金を前金としてバンドに渡し、USツアーまでに作るようにせかしにせかして制作されました。

 モチーフはヨーロッパ中世の宮廷詩人タリエシンの七つの世界ということで、後のブラックモアズ・ナイトに通じるところもあります。前作からわずか5か月の期間で作ったにしては、バラエティに富み過ぎているところも若気の至りっぽくて、とても素晴らしいと思います。

 エルビスの出来そこないのようなロッド・エヴァンスのボーカル、結構印象的なフレーズを奏でるニック・シンパーのベース、三つ子の魂百までではないですが、よおく聴いてみるとハード・ロック全盛時とあまり変わらないブラックモアのギター。

 それに対して、リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラ」やらチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」を持ってくるクラシックなオルガン奏者ジョン・ロードのセンス。各自バラバラとも言えるこのセンスのぶつかり合いがなかなかに素晴らしいです。

 ブラックモアとシンパーのハード・ロック志向と、ロードのクラシック志向とが、うまい具合に混ぜ合わさっていて、異次元の面白さが醸し出されています。そこがとっちらかったアルバムという評価にもなるわけですけれども、サイケデリック方面に受ける所以でもあります。

 イギリスでは相変わらずちゃんとしたプロモーションもされず、中途半端な扱いのままでした。このアルバムもイギリスでの発売は随分遅れましたし。確かにプロモーションしにくいバンドの方向性ではあったと思います。じっくり聴かないとなかなか伝わらない。

 ところで、植草甚一先生は、結構この第一期ディープ・パープルを評価していらっしゃいます。この作品を評して、「かりにジャニス・ジョプリンのように自己忘却的な型破りな歌手が、このグループに加わっていたとしたらどうなるだろうか」と書かれています。凄い慧眼です。

The Book Of Taliesyn / Deep Purple (1968 Tetragrammaton)

*2011年8月6日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Listen, Learn, Read On
02. Wring That Neck
03. Kentucky Woman
04. a) Exposition
b) We Can Work It Out 恋を抱きしめよう
05. The Shield
06. Anthem 聖なる歌
07. River Deep, Mountain High

Personnel:
Rod Evans : vocal
Jon Lord : organ, vocal
Nic Simper : bass, vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Paice : drums