日本ではレッド・ツェッペリンと並ぶハード・ロック界の二大巨頭として異次元の人気をほこったディープ・パープルのデビュー・アルバムです。原題は「シェイズ・オブ・ディープ・パープル」ですが、邦題はヒット曲の曲名をとって「ハッシュ」とされています。

 ディープ・パープルの名前の由来は、ギターのリッチー・ブラックモアのお祖母さんが好きだった曲のタイトルです。ビング・クロスビーも歌ったスタンダード曲です。紫は完成を見た色と言う意味で、年寄りに向いているということを実感させるエピソードです。

 さて、ディープ・パープルは、もともとサーチャーズというバンドのクリス・カーティスが発起人となって誕生したバンドだそうです。最初は、コア・メンバーを除き、様々なミュージシャンが入れ替わるというコンセプトのラウンドアバウトなるプロジェクトでした。

 結局、カーティスも抜けた固定メンバーによるバンドになるわけですが、気の合った仲間同士で結成したバンドというよりも、どちらかと言えば、マネジメント主導で集められたバンドであることがわかります。後に繰り返されるメンバー交代劇がここに胚胎していたのです。

 パープルの中心はもちろんキーボードのジョン・ロードとギターのリッチー・ブラックモアの二人です。そして、このデビュー時点では、ボーカルがエルヴィスのようなロッド・エヴァンス、ベースがニック・シンパー、ドラムにイアン・ペイスという、いわゆる第一期の布陣です。

 イギリスではEMIと契約しましたが、ビートルズに忙しくてろくなプロモーションがありませんでした。しかし、アメリカではテトラグラマトンという弱小レーベルが頑張りました。ラジオでガンガンかけて、何とこのアルバムの一曲「ハッシュ」が全米第4位の大ヒットとなります。

 この頃のディープ・パープルはいわゆるアート・ロックと呼ばれるサウンドを展開していました。同じジャンルには、「キープ・ミー・ハンギング・オン」のヴァニラ・ファッジやキース・エマーソンのザ・ナイスなどがあります。特にヴァニラ・ファッジの影響は大きいです。

 そのサウンドは一言で言えばサイケデリックです。この時代特有の録音による音も典型的なサイケデリック感を醸し出しています。それに、火花を散らすロードのオルガンとブラックモアのギターもサイケデリックを追及したような音作りになっています。

 また、まさかの全米4位の大ヒットを記録した「ハッシュ」はアメリカ人歌手ジョー・サウスの曲ですし、ビートルズの「ヘルプ」、ジミ・ヘンドリクスの「ヘイ・ジョー」など、有名曲を独自にアレンジて、オリジナル曲と拮抗させた点もサイケデリック時代を感じます。

 第一期パープルの好き嫌いは、エヴァンスの歌声が好きか嫌いかで分かれます。この作品では、結構演奏はハード・ロックなのですけれども、エヴァンスの歌声が良い声過ぎるんです。ハード・ロックの王者としてディープ・パープルを崇める向きには不興です。

 私は第一期ディープ・パープルが大好きなので、このデビュー作はとても愛おしいです。皆それぞれ前歴を持つ達者なミュージシャンですが、確かな技術に裏打ちされつつも、ここでの彼らは若々しくて気概にあふれています。そこが眩しい名盤だと思います。

Shades Of Deep Purple / Deep Purple (1968 Tetragrammaton)

*2014年6月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. And The Address
02. Hush
03. One More Rainy Day
04. a) Prelude : Happiness
b) I'm So Glad
05. Mandrake Root
06. Help
07. Love Help Me
08. Hey Joe

Personnel:
Rod Evans : vocal
Jon Lord : organ, vocal
Nic Simper : bass, vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Paice : drums