先日、とあるライヴを見た際に、ゲストで参加していた瀬尾マリナの歌声が大そう気になったものですから、何か彼女の歌が聴ける作品はないかと音源を探したところ、この作品に遭遇しました。2018年に結成されたエヴラークのファースト・アルバム「エヴラークⅠ」です。

 公式サイトによればエヴラークは2018年に結成された6人組です。メンバーはベースの川嶋弘治、ギターの菅野ハヤヲ、ボーカルの瀬尾マリナ、ドラムの吉田タケシ、ピアノとシンセの長谷川ミキ、サックスの今川天国の6人です。作曲は川嶋と菅野が担当しています。

 ディスコグラフィを見ると、2020年に3曲収録のEPを発売した後、2021年11月にセルフ・リリースによるファースト・アルバムが発表されています。EP収録の三曲に新曲を三曲追加した全部で6曲入りのアルバムです。これが「エヴラークⅠ」です。

 その後、エヴラークはイタリアのインディーズレーベルである「ワームホールデス」とファースト・アルバムのデジタル配信契約を結んでいます。すでに入手困難となっていた同アルバムですけれども、おかげさまで現在さまざまなサブスクを通じて配信されています。

 私も配信を通じて聴くことができました。なお、配信にはボーナス・トラックとして新曲「パルス・パルス」のライヴ演奏が収録されており、フィジカル・リリースが手元にないという寂しさを埋め合わせてくれています。ライヴ収録はまことに正しいボートラのあり方です。

 さて、エヴラークのサウンドですが、公式サイトによれば、「ダークでダイナミック、そしてドラマティック。伝統的なプログレ、メタル、ゴス、ポストロック・ファンにもアピールしている」と紹介されています。一番成分が強いのはプログレであろうかと思います。

 各メンバーの年齢は不詳ですけれども、英国のプログレ全盛期にはまだ物心がついていなさそうです。しかし、とりわけ中心メンバーの川嶋と菅野は往年のプログレッシヴ・ロック・バンドをこよなく愛しているようですから、後追いで多大な影響を受けているのでしょう。

 サウンドは1970年代のプログレッシヴ・ロックを彷彿させてくれます。とりわけキング・クリムゾンやマグマでしょうか。ヘヴィーで強烈な演奏はクリムゾンっぽいですし、呪術的な雰囲気を漂わせるところはマグマを想起させます。お約束の変拍子も満載です。

 とりわけ川嶋のベースが目立ちます。録音の仕方も当時のプログレにならってごつごつしています。そして、一人だけプログレは無縁と言い張る今川のサックスが、クリムゾンの「レッド」などでのメル・コリンズを想起させて否応なく感動させられてしまいます。

 こうしたテクニカルな演奏に対して瀬尾のボーカルはエモーショナルに一体化する時もあれば、日本語詞のアニソンないしはわらべ歌的な表情で対立が際立つ時もあり、バンドの強烈な個性を形作っています。瀬尾の歌は何とも魅力的なんです。

 後追いしているだけに、プログレ・サウンドのクリームの部分を吸い上げつつ、後のヘヴィ・メタルやポストパンクのエッセンスもぶちこみ、さらに女声ボーカルでアンバランスを持ち込んで、と大変にぜいたくな作品となっています。プログレは死なず!

Evraak I / Evraak (2022 Wormholedeath)



Tracks:
01. Saethi
02. Stigma
03. Asylum Piece
04. Into The New World
05. Cure
06. Sacrifice
07. Pulse x Pulse

Personnel:
川嶋弘治 : bass
菅野ハヤヲ : guitar
瀬尾マリナ : voice, performance
吉田タケシ : drums
長谷川ミキ : piano, synthesizer
今川天国 : sax