ジャケットがサイケデリックです。ザ・フーの「クイック・ワン」や、ビートルズの「イエロー・サブマリン」などが意識されているようで、サイケデリックな雰囲気が濃厚ながら、とても華やかなジャケットとなりました。XTCの音楽職人ぶりがジャケットにも出ています。

 このジャケットに包まれているのはXTCの3年ぶりのアルバム「オレンジズ&レモンズ」です。今回のプロデューサーは米国人ポール・フォックス、その作品を並べてみると脈絡がないともいえる売れっ子です。セッションマンとしてもロッド・スチュワートなどと共演しています。

 トッド・ラングレンとの前作に比べると、ポップな持ち味はそのままに、オーバーダブを重ねたややメタル調のサイケデリックな風味が濃くなりました。キャッチーなメロディーには磨きがかかり、見事に彫琢された楽曲が並んでいます。ポール・マッカートニー的とも言えます。

 今回はドラムに後にキング・クリムゾンに加わるパット・マステロット、ホーンのアレンジに映画音楽で名高いマーク・アイシャムが加わっています。サウンドはゴージャスですが、プロデューサーも含めて今回集まった面々はとても落ち着いた雰囲気を醸しています。

 レイド・バックとでも言えばいいのでしょうか。ジャケットからしてビートルズなんですが、変名バンド、デュークスでやった1960年代サイケデリックへのトリビュートがこちらにも染み出してきています。参加した人々はとても楽しそうに思えます。

 本作品はそこそこ売れるヒットになりました。米国でも、唯一のシングル・ヒットとなった「メイヤー・オブ・シンプルトン」に引っ張られるようにオルタナ・チャートを中心に活躍し、メイン・チャートにも顔をだすことができました。何だか私も嬉しかった。

 「メイヤー・オブ・シンプルトン」は、直訳すれば「おバカ町の市長さん」です。パートリッジは繰返しこういう歌詞を書きます。♪大ヒット曲の書き方もしらないおバカ町の市長だけど、君を愛していることだけは知ってるよ♪。なかなか売れないXTCならではです。

 この曲は足るを知る歌と言えるでしょう。まさにポップ仙人の面目躍如です。浮世から離れることはしない。ポップな持ち味はそのままに、世俗の垢にまみれたところで悟りを開くという、ポップ仙人の佇まいが濃厚です。こんなパートリッジをみんなが愛したわけです。

 今回はムールディングの曲が全15曲中3曲だけですが、むしろムールディングの曲の方がアレンジが凝ってきています。二人は競争するように曲をどんどん深化させていきます。キャッチーでポップなのに、聴けば聴くほど深い味わいがある見事なサウンドです。

 このアルバムまではXTCの作品が発表されるとすぐに買っていました。この作品には十分に満足させて頂きました。もう30歳前でしたけれども、成長を共にした感覚がありましたし。前作よりもXTCらしいですから、一つの到達点と今でも認識しています。いいアルバムです。

 余談ながら、定評ある海野の「ビジネス技術実用英語大辞典V6」には、本作品収録で伝記のタイトルにもなった「チョークヒルス&チルドレン」を書いたパートリッジを賞賛する例文が出てきます。とてもXTCらしいお話だなとほのぼのいたしました。

Oranges & Lemons / XTC (1989 Virgin)

*2013年7月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Garden Of Earthly Delights
02. Mayor Of Simpleton
03. King For A Day
04. Here Comes President Kill Again
05. The Loving
06. Poor Skeleton Steps Out
07. One Of The Millions
08. Scarecrow People
09. Merely A Man
10. Cynical days
11. Across This Antheap
12. Hold Me My Daddy
13. Pink Thing
14. Miniature Sun
15. Chalkhills And Children

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar
Colin Moulding : vocal, bass
Dave Gregory : guitar, chorus, keyboards
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Pat Mastelotto : drums
Mark Isham : horns
Paul Fox : keyboards
Franne Golde : chorus