ほとんどのコンサートは録音や撮影は固く禁じられていますけれども、グレイトフル・デッドの場合は、ファンに非営利目的である限り、自由に録音して交換することが許可されていました。先駆的なマーケティング手法として後に話題になる所業です。

 このため、これまで行われた2000回を超えるショーのほとんどは録音テープが存在しています。このことは、インターネットで無尽蔵にアーカイヴできる時代になって、ますますその真価が発揮されているように思われます。まぶしすぎますね。

 デッドのライヴ・アルバムはそれこそ「ライヴ・デッド」の昔から存在しますけれども、デッドの解散前後からおびただしい数の作品が公式にリリースされるようになりました。この洪水は今に至るまで続いており、ファンにとっては喜ばしい限りです。

 本作品はその嚆矢ともいえる「ディックス・ピックス」シリーズの第一弾です。このシリーズの特徴は、それまでサウンドボードを通した録音のみをライヴ・アルバムとして公式に発表してきたデッドが、初めて2トラックのファンによる録音を公式に発売したことにあります。

 シリーズ名は、筋金入りのデッド・ファン、いわゆるデッドヘッドの一人である、ディック・ラトバラに由来します。ファンが嵩じてデッドのために働くようになったディックは、以前からライヴ・テープを収集整理しており、デッドにもアーカイヴの重要性を認識させました。

 そうして、その中から第一弾として発表されたのが本作品です。1993年の発売です。私は当時、こうした事情は全く知りませんでしたが、第一弾とされているので収集家魂を刺激されたことと、「新たなる夜明け」の時期であることからふらふらと購入してしまいました。

 ライヴは1973年12月19日にフロリダ州タンパにあるカーティス・ヒクソン・ホールにて行われたものです。8000人ほど収容できるホールのようです。バンドはジェリー・ガルシア、フィル・レッシュ、ボブ・ウィア、ビル・クルーツマン、キース・ゴッドショーの5人組です。

 メンバーとして記載されているキースの妻ドナは、ちょうど第一子を出産するためにツアーを離れていました。そのためクレジットには担当として「出産」と書かれているという、何ともデッド・ファミリーらしい話になっています。アルバムの雰囲気もよく表しています。

 「新たなる夜明け」の発表直後だけあって、同作品からの曲が4曲、それも長めに演奏されています。その他には定番である「プレイング・イン・ザ・バンド」や「トラッキン」、「ジ・アザー・ワン」などが収録されており、いつものデッドのコンサートが楽しめます。

 本作品の話題となったのはブルース曲「ノーバディズ・フォールト・バット・マイン」を演奏していることでした。何度も演奏されている曲ではありますが、アルバムとして発表されたのは本作品が最初なのでした。ガルシアのギターがかっこいい曲です。

 初めてミックスできな2トラック録音を発表したことから、それなりの音質だと断り書きがあります。確かに最良の音質とはいきませんが、けして悪くはありません。むしろ、オーディオ装置を選ばない気軽な聴き方ができるというものです。これもまたデッドの魅力ですね。

Dick's Picks Vol.1 / Grateful Dead (1993 Grateful Dead)



Tracks:
(disc one)
01. Here Comes Sunshine
02. Big River
03. Mississippi Half-Step Uptown Toodeloo
04. Weather Report Suite
05. Big Railroad Blues
06. Playing In The Band
(disc two)
01. He's Gone
02. Truckin
03. Nobody's Fault But Mine
04. Jam
05. The Other One
06. Jam
07. Stella Blue
08. Around And Around

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, vocal
Keith Godchaux : keyboards
Bill Kreutzmann : drums
Phil Lesh : bass, vocal
Bob Weir : guitar, vocals