良質のポップなロック・アルバムですが、元々は陰毛を大胆にあしらったジャケットを使うことが計画されていました。その絵面そのものは牧歌的と言えなくもありませんが、一般には反社会的な姿勢ととられます。案の定、レコード会社に却下されました。反骨精神ですかね。

 XTCの9枚目の作品「スカイラーキング」は大いに話題になりました。ポップ職人として名声を築いていたアンディー・パートリッジが、米国のポップ職人トッド・ラングレンにプロデュースを委ねたからです。横綱同士というと言い過ぎなので、東西の大関対決と言っておきましょう。

 その結果、前作のメタル路線ではなく、前々作「ママー」で見られた牧歌的な香りもする極上のポップス路線が復活しました。柔らかなアレンジが全体を覆っていて、ますますビートルズの後期の雰囲気が色濃くでてまいりました。何でもビートルズに回収するのも何ですが。

 冒頭の虫の声に始まって、全体がゆるやかに一つの物語となるよう構成されています。コリン・ムールディングの曲が全14曲中5曲と多いですし、全体にかなりムールディング色が強い気がします。やはりラングレンとはムールディングの方が相性がよさそうです。

 シングル・カットもされたムールディングの曲「グラス」が印象深いです。この感じ。ゆったりとした甘めの曲調がアルバム全体の雰囲気を決めているように思います。柔らかでしなやかな極上のポップスであると言えましょう。虫の音なども見事なものです。

 プロデューサー選定にあたっては、レコード会社から米国で成功しないと後がないと脅かされ、米国攻略のためにと会社がアメリカ人プロデューサーのリストが提示されました。その中でメンバーが唯一知っていた名前だったラングレンに白羽の矢が立ったそうです。

 他の人がプロデュースする可能性もあったわけですね。クインシー・ジョーンズとか、デヴィッド・フォスターとかトム・ダウドとか、まったく畑違いの人でも面白かったのではないかと思います。ラングレンは大きく括るとXTCと同じカテゴリーの人ですから、驚きは少ないです。

 しかし、レコーディング中はパートリッジとラングレンの喧嘩が絶えなかったようで、いろいろと逸話が残っています。同じような資質を持ったマニア同士ですから、合う訳がありません。しかし、結局マニアとマニアがぶつかって、マニアらしさが相殺されました。

 ムールディングはラングレンのプロデュースを得て、水を得た魚のように生き生きとしていますから、結果としては上首尾です。XTCはこれまでもプロデューサーによって作風が異なってきました。プロデューサーと対峙しつつ、その良いところを自分のものにするバンドです。

 アルバム中、私が気になる曲は「アーン・イナフ・フォー・アス」です。「ママー」では農夫の収入じゃあ恋もできないと嘆いていたパートリッジですが、今回は上司の厳しいコメントにも耐えながら何とかつましく愛を育んでいます。この貧乏臭いところも魅力の一つですね。

 ところで、私が持っているCDはオリジナルなので、後に差し替えられた「ディア・ゴッド」は入っていません。それから、何でもオリジナル・ミックスは左右の極が逆だったようで、これを正したLPが出ています。オリジナルを持っていてもいいことがありませんね。

Skylarking / XTC (1986 Virgin)

*2013年7月18日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Summer's Cauldron
02. Grass
03. The Meeting Place
04. That's Really Super, Supergirl
05. Ballet For A Rainy Day
06. 1000 Umbrellas
07. Season Cycle
08. Earn Enough For Us
09. Big Day
10. Another Satellite
11. Mermaid Smiled
12. The Man Who Sailed Around His Soul
13. Dying
14. Sacrificial Bonfire

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar
Colin Moulding : vocal, bass, bonfire
Dave Gregory : vocal, guitar, piano, synthesizer, chamberlin, the old tiple
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Todd Rundgren : programming
Prairie Prince : drums