わずか25歳の若さで夭折してしまったクリフォード・ブラウンですから、その実質的な活動期間はディジー・ガレスピーのバンドに代役指名されて絶賛された19歳の頃から考えてもわずか6年にすぎません。同じトランぺッターのマイルス・デイヴィスとは大きな違いです。

 レコーディングという観点からみるとなおそのキャリアは短く、1953年から1956年とたった足掛け4年です。それでもアルバムにして何枚かの録音が残されているのですからありがたいことです。どの作品もとにかく貴重だと言わざるを得ません。

 本作品は1953年10月8日にパリで行われたセッションの記録です。ブラウンにとっては最初期の録音の一つといってよいでしょう。ブラウンがライオネル・ハンプトン楽団の一員としてヨーロッパをツアーでまわった際に録音されたものです。

 ハンプトンはツアー中に楽団員が勝手な行動をしないように厳しく戒めていたそうですけれども、若いミュージシャンたちを縛り付けるに十分なギャラの支払がなされていなかったようで、メンバーたちは隙あらば小遣いを稼ごうと機会をうかがっていたのでした。

 それに当時のヨーロッパはアメリカのジャズに夢中でした。そのため、来訪中のジャズ・ミュージシャンとのセッションを希望する声は大きく、その熱に押されるようにレコーディング・セッションが実現していったというところだったのでしょう。

 本作品はその一つで、ハンプトン楽団からブラウンとアルト・サックスのジジ・グライスが参加して、地元パリのミュージシャンたちと繰り広げた演奏が収録されたものです。タイトルは「ジジ・グライス・クリフォード・ブラウン・セクステット」とそのまんまです。

 パリのミュージシャンはギターのジミー・グーリー、ピアノのアンリ・ルノー、ベースのピエール・ミシュロ、ドラムにジャン・ルイ・ヴィアレの四人です。このうちグーリーはアメリカ人なのですが、この当時からパリを拠点に活動していたギタリストです。

 フランス人の3人もいずれもその後名を成すミュージシャンです。渡欧するジャズメンをつかまえてはセッションを行って名をあげていったわけです。本場の演奏を渇望する若い才能たちの姿はなんだか胸をうつものがあります。当時の日本もそうだったんでしょうね。 

 さて、収録された曲はいずれもグライスのオリジナルです。全4曲、わずか20分強の演奏ですけれども、しっかりとサックス、ピアノ、ギター、それにブラウンのトランペットのソロがフィーチャーされていて熱いです。はつらつとした当時のジャズが堪能できます。

 フランス勢の熱い視線を受けて、本場アメリカの二人はしっかりと足跡を残しています。サックスに比べると出番は少ないとはいえ、トランペットがぐっと割り込んでくるところには感動してしまいます。この頃からなんでこんなにこの人は楽しそうなんでしょう。気持ちがいいです。

 本作品は秘密裏の録音とはいいながら、翌年にはブルーノートから10インチLPとして発売されています。何といっても出来がいいですからね。希少性ばかりが喧伝されますけれども、若手フランス・ミュージシャンとブラウニーの心躍る演奏は素直に素晴らしいです。

Gigi Gryce Clifford Brown Sextet / Gigi Gryce Clifford Brown Sextet (1954 Blue Note)



Tracks:
01. Minority
02. Salute To The Band Box
03. Strictly Romantic
04. Baby

Personnel:
Clifford Brown : trumpet
Gigi Gryce : alto sax
Jimmy Gourley : guitar
Henri Renaud : piano
Pierre Michelot : bass
Jean-Louis Viale : drums