XTCの7枚目のアルバム「ザ・ビッグ・エキスプレス」です。LPでは車輪型の変形ジャケットでのお目見えとなりました。しかし、私は当時からCDで買いました。この当時はまだCDが普及し始めた頃でしたから、CDで買うことは少し鼻の高い気分なのでした。

 本作品は、XTCのアルバムの中でもメタリックな持ち味の作品として一部では大いに人気があります。メンバーが変わったわけではありません。XTCはここでもアンディ・パートリッジ、コリン・ムールディング、デイヴ・グレゴリーのトリオです。

 しかし、プロデューサーはエコー&ザ・バニーメンやらティアーズ・フォー・フィアーズなどのニュー・ウェイブのバンドを手掛けて成功していたデヴィッド・ロードに代わりました。謝辞の欄にTFFのローランドとカートの名前が見えるのは何か関係ありそうです。

 メタリックな味わいはこのプロデューサーの変更が係わっているのかもしれません。ゲスト・ドラムは前作と同様に元グリッター・バンドのピーター・フィップスですが、今回はパートリッジに担当楽器にリン・ドラムが加わったことも関係ありそうです。

 ミュージック・マガジン誌では、中村とうよう氏が基本的に本作を高く評価する中で、「メタリックであっても重くないから、ぼくはライト・メタル、つまり『軽金属ロック』というキャッチフレーズがXTCに合うんじゃないかと思う」と書いていました。

 この形容はなかなか優れていると思いますが、流行りませんでした。ちなみに初期のXTCをロック・マガジンの阿木譲氏は「テクノ・ポップ」と形容されていました。YMOなどがそう呼ばれるより前のことで、私の知る限りではこの言葉を使ったのは阿木氏が最初でした。

 XTCの手の込んだ作品を前にすると、何か一言うまいことを言いたくなる気持ちはわからないではありません。玄人好みのバンドであるということでもあるのでしょう。いろいろとその音楽について語りたくなるバンドですし、また確かに豊富な話題を提供してくれています。

 本作品からは「オール・ユー・プリティー・ガールズ」という英国民謡のような曲がシングル・カットされました。バグ・パイプが似合いそうなトラッドなテイストの面白い楽曲です。同様にトラッドの香りがする「ワールド・オーヴァー」もシングルとなりました。メタリックなトラッド。

 面白い題名の曲に「シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハー」があります。♪カモメがはやすよ、キスしろキスしろと♪とでも訳すことができるでしょうか。この曲名をそのままバンド名にした日本のオルタナ・ロックのバンドがありましたね。

 もう一曲シングル・カットされたのはお約束のムールディングの曲「ウェイク・アップ」です。今回のムールディングは3曲だけ。それでもシングルに選ばれるのですから、彼のメロディー作りの才能は凄いです。少しヘビーなこの曲は蒸気機関車の動輪ジャケのイメージ通りです。

 何回も繰り返しますが、全編にメタリックな響きのオルタナ風味でポップなロックが展開されています。パートリッジの声もいつに増してメタリックな響きです。べたっとしそうでしないところが、英国のバンドらしいところで、隅々までロックな感覚が行き渡った快作だと思います。

The Big Express / XTC (1984 Virgin)

*2013年7月13日の記事を書き直しました。

参照:ミュージック・マガジン1985年2月号



Tracks:
01. Wake Up
02. All You Pretty Girls
03. Shake You Donkey Up
04. Seagulls Screaming Kiss Her Kiss Her
05. This World Over
06. Red Brick Dream
07. Washaway
08. Blue Overall
09. The Everyday Story Of Smalltown
10. I Bought Myself A Liarbird
11. Reign Of Blows
12. You're The Wish You Are I Had
13. I Remember The Sun
14. Train Running Low On Soul Coal

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, Linn drum, harmonica
Colin Moulding : vocal, bass
David Gregory : guitar, piano, mellotron, synthesizer
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Peter Phipps : drums
Stuart Gordon : violin, viola
Annie Huchrak : chorus
Steve Saunders : euphonium