スパークスは21世紀に入ってからも大変充実した活動を続けています。こんなバンドは数えるほどしかありません。本作品は前作から2年を経て発表された21作目のアルバム、「エキゾチック・クリーチャーズ・オブ・ザ・ディープ」です。順調なことこの上ありません。

 この作品の最大の話題はそのライヴ初お目見えのされ方です。2008年6月13日にロンドンで初披露されたのですが、そこに至る5月16日から6月11日までの間、「スパークス・スペクタキュラー」と称する過去作を演奏するライヴが行われたのです。

 それも過去20作品を20夜にわたって一作目から順番に20作目まで、その全曲を収録順通りに演奏していくという前代未聞のライヴです。こうしてスパークスのキャリアすべてをなぞった上で、21作目のプレミア公開がなされたという驚くべき仕掛けです。

 思いついたはいいものの、さすがに準備は大変だったようです。ローリング・ストーンズなどとは異なり、スパークスはロンとラッセルのメイル兄弟以外のメンバーは流動的ですから、バンド・メンバーにとっては過去作品はほとんど初めてプレイするはずです。

 そこはさすがにプロだけに演奏できないことはありませんが、一枚仕上げて次の一枚にとりかかると仕上げた一枚を忘れてしまうという行きつ戻りつを繰返したんだそうです。そんな苦労を重ねながらもとにかくスパークスはこれをやり遂げました。

 毎晩通ったディープなファンもいたそうで、感激もひとしおだったことでしょう。私も見に行きたかったなどとは軽々に言えない恐るべきイベントです。スパークスのこの常識を超えたライヴは大いに話題になり、ますます勢いをつけた兄弟なのでした。

 そのライヴの最後のピースとなった本作品は、基本的には前作、前々作の延長線上にあるキーボードとオーケストレーション主体のポップ・アルバムです。ただし、ここ何作かでギターを弾いているディーン・メンタの活躍がより目立つようになってきています。

 控えめながらギターが復権してきています。同様にドラムを叩いているテレビ・プロデューサーのタミー・グローヴァーの出番も多くなってきているように感じます。少々、従来型のロックのフォーマットが復活してきているようです。これもまた一周回って新鮮です。

 本作品からは「グッド・モーニング」と「ライトゥン・アップ・モリッシー」の二曲がシングル・カットされています。前者は、朝起きてみたら隣に知らない女性が寝ていたというお話ですし、後者はザ・スミスのモリッシーのようになれないならつき合えないという妙な女性のお話。

 スパークスの歌の世界は相変わらずアイロニーとユーモアに満ちていて素晴らしいです。「監督がカットと叫ばない」なんていう曲もあれば、「この歌の馬鹿な歌詞にいかれてしまうなんて信じられない」というような曲もあります。我が道を突き進むスパークスです。

 ラッセルの幾重にも重なったボーカルはますます素敵です。この頃にはシザー・シスターやミカなどラッセルを思わせるアーティストが人気を博していました。本作品も英国では低位ながらチャート入りしており、スパークスはもはや人間国宝の域に達しているようです。

Exotic Creatures Of The Deep / Sparks (2008 Lil' Beethoven)



Tracks:
01. Intro
02. Good Morning
03. Strange Animal
04. I Can't Believe That You Would Fall For All The Crap In This Song
05. Let The Monkey Drive
06. Intro Reprise
07. I've Never Been High
08. (She Got Me) Pregnant
09. Lighten Up, Morrissey
10. This Is The Renaissance
11. The Director Never Yelled 'Cut'
12. Photoshop
13. Likeable

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards, programming
Tammy Glover : drums
Dean Menta : guitar