英国五大プログレッシブ・ロック・バンドの一つ、エマーソン・レイク&パーマーによるセルフ・タイトルのデビュー・アルバムです。昔はジャケットが彼ららしくないと思っていたのですが、「ラヴ・ビーチ」ショックの後では、これもEL&Pらしいと思うようになりました。

 EL&Pは結成が発表されるやスーパーグループとして大きく期待されていました。ナイスのキース・エマーソン、キング・クリムゾンのグレッグ・レイク、アトミック・ルースターのカール・パーマーによるキーボード・トリオ。キャリアが長く知名度抜群の猛者三人によるトリオ。

 とはいえ、渋谷陽一氏によれば、このデビュー時点では「キング・クリムゾンにしても、ナイスにしても、それほど高い人気を日本では得ていなかった」とのことで、EL&Pへのメディアの期待は高かったものの「一般的な人気の面ではもうひとつというところだった」そうです。

 私が洋楽を聴き始めた頃は、すでに「展覧会の絵」でEL&P人気は不動のものとなっており、ミュージック・ライフ誌の人気投票でもトップを争っていました。私より10年近く年上の渋谷さんは見えている光景の射程が長い。ここの10年の差は日本の洋楽には決定的です。

 閑話休題。この作品はレコード会社各社の間での激しい争奪戦の末に、英国本国ではアイランド・レコードから発表されました。その期待通り、英国では4位、米国でも18位とかなりのヒットを記録しています。日本では渋谷氏の言う通り、66位どまりでした。

 EL&Pはメンバーそれぞれの演奏技術の高さが喧伝されていましたが、特にバンドのリード楽器であるキーボードを担うキース・エマーソンはとにかく凄いと評判でした。誰も聴いたことがないような攻撃的なキーボードさばきは大いに人気を博したのでした。

 エマーソンは幼少のころからクラシックを学んでおり、その後ジャズ、ロックへと世界を広げていった人です。彼の中ではクラシックもロックもジャズもまるで一続きの音楽であるようで、本作品でもクラシック音楽を比較的ダイレクトに取り入れている点に特徴があります。

 本作品収録の「未開人」はバルトークですし、「ナイフ・エッジ」はヤナーチェクとバッハの曲が取り入れられています。弾いているのはハモンド・オルガンやピアノ、クラシックの王道なのですが、見事に激しいロックへと変貌しています。ナイス時代よりも一段進んでいます。

 一方、もう一人の中心人物レイクはプロデューサーとしてバンドの方向性を舵取りしています。クリムゾン時代から続くその叙情的なボーカルに代表される、エマーソンとは異質の個性をうまく融合させることに意を注いでいるようです。このバランスがいいです。

 それを象徴するのがシングル・カットもされた「ラッキー・マン」でしょう。レイクの穏やかな歌唱による世界を切り裂くようにエマーソンがモーグ・シンセのソロをぶち込んでいます。以降、エマーソンのトレードマークとなるモーグの世界を驚かせたデビューです。

 モーグ博士も感動したこのソロがあるだけでも本作品の価値は決定したものと思います。まだ20代の三人のアーティストによる進取の気性に満ちたアルバムです。これをプログレッシブと言わずして何がプログレッシブでしょうか。この頃、未来は明るかった。

Emerson, Lake & Palmer / Emerson, Lake & Palmer (1970 Island)

参照:「ロック・ベスト・アルバム・セレクション」渋谷陽一(新潮文庫)



Tracks:
01. The Barbarian 未開人
02. Take A Pebble 石をとれ
03. Knife-Edge
04. The Three Fates 運命の3人の女神
a) Clotho
b) Lachesis
c) Atropos
05. Tank
06. Lucky Man

Personnel:
Keith Emerson : organ, clavinet, synthesizer
Greg Lake : vocal, bass, guitar
Carl Palmer : drums, percussion