邦題はすっきりまとめて「ハンク」、原題を「ハンク・ウィルソンズ・バックVOL1」とされたアルバムはハンク・ウィルソン名義で発表されたレオン・ラッセルのアルバムです。ジャケットは踊る観客の写真とご機嫌に歌うハンクことラッセルの後姿を合成したものです。

 成功したミュージシャンが偽名で作品を発表して、その知名度によりかからない判断を聴衆に求めるのはありがちなことですけれども、ラッセルの場合はそんな悲壮な覚悟というよりは遊び心でしょう。少なくとも日本ではラッセルの作品だと最初から宣伝されていました。

 この作品でラッセルはカントリー音楽のカバーを試みています。ハンクという名前はカントリー音楽の偉人のうちの三人のハンク、すなわちハンク・スノウ、ハンク・トンプソン、ハンク・ウィリアムにちなんで採用されたものです。どっぷりカントリー沼にはまろうとする覚悟です。

 収録された曲はいずれもカントリーの名曲ばかりです。録音場所は、カントリー界のレジェンド、オーウェン・ブラッドリーが所有するナッシュヴィルのブラッドリー・バーン、共演しているミュージシャンにはカントリー音楽を代表するミュージシャンが顔を並べています。

 ベースのハロルド・ブラッドリー、ピアノにデヴィッド・ブリッグス、ギターにビリー・バード、ハーモニカにチャーリー・マッコイ、ペダル・スティールにピート・ドレイク、といった具合です。ここにラッセル馴染みのJJケールやカール・レイドルなどが加わってバンドができています。

 公式サイトの紹介文からミュージシャンの名前を引っ張ってきたのですが、その名前を見ても知っているような知らないような名前ばかりで、いかに私がカントリー音楽に疎いかを自覚してしまいました。カントリー音楽を何となく敬遠してきたのです。

 カントリーといえば白人による白人のための音楽だとの印象が強く、黒人音楽にルーツを持つロックやジャズの対極にある感じがしてしまいます。白人のおっさんおばはんの音楽、日本でいえば演歌の感覚。私はかなり偏見に満ちてしまっているようですね。

 子どもの頃にはテレビでも日本の若い歌手がカントリー&ウェスタンを歌って熱狂的な人気を博していたことも目のあたりにしているのにこれ。その自覚をもって本作品に向かうと、まあ何とも楽し気なラッセルの姿がまぶしいです。心底楽し気です。

 何でもドライブ中にカントリー音楽ばかり聴いていて本作品を思いついたそうです。いわば企画物です。これを先ほどご紹介した陣立てにして実現してしまうのですからラッセルのプロデューサーとしての力量は高い。あれよあれよと素敵なアルバムが出来上がりました。

 偏見に満ちた私でも知っている「ジャンバラヤ」や「泣きたいほどの寂しさ」や、「グッドナイト・アイリーン」などカントリーの名曲を並べて、ラッセルにしては元のメロディーに忠実に歌いまくっています。あの魅力的な声はそのままに、カントリー音楽の王道を聴かせてくれます。

 こうした上質なサウンドを聴いていると、偏見も解けていくというものです。曲は名曲、演奏は巨匠ですから間違いはありません。カントリー音楽入門を目指すならこの一枚でしょう。ハンクは続編と続々編が四半世紀後に発表し、その10年後のベスト盤で幕を閉じるのでした。

Hank Wilson's Back Vol.1 / Leon Russell (1973 Shelter)



Tracks:
01. Roll In My Sweet Baby's Arms 恋人の胸に抱かれて
02. She Thinks I Still Care 何でもないのに
03. I'm So Lonesome I Could Cry 泣きたいほどの淋しさ
04. I'll Sail My Ship Alone
05. Jambalaya (On The Bayou)
06. A Six Pack To Go
07. The Battle Of New Orleans
08. Uncle Pen
09. Am I That Easy To Forget?
10. Truck Drivin' Man
11. The Window Up Above
12. Lost Highway
13. L\Goodnight Irene
(bonus)
14. Hey Good Lookin'
15. In The Jailhouse Now

Personnel:
Leon Russell : vocal
***
Billy Byrd, J.J. Cale, Dianne Davidson, Grady Martin, Billy Sanford, Pete Wade, Chip Young : guitar
Butch Robins, Tut Taylor : dobro
Curly Chalker, Weldon Myrick, Hal Rugg : steel guitar
Bobby Thompson : banjo
Harold Bradley, Bob Moore, Carl Radle, Joe Zinkan : bass
David Briggs, Hogus "Pig" Robbins : piano
Jim Buchanan, Johnny Gimble : fiddle
Jerry Carrigan, Buddy Harman : drums
Charlie McCoy : harmonica
David Briggs, Dianne Davidson, Millie Kirkham, Charlie McCoy, Melba Montgomery : chorus