アーティストについて何か書く場合には敬称を略すべきですし、ましてや女性だからといってちゃん付けするのはもっての他だと思いますけれども、あのちゃんの場合は地の文であのと書くと分かりにくいですし、あのさんとするのも居心地が悪い。ここはあのちゃんでいきます。

 「猫猫吐吐」はあのちゃんのソロ・デビュー・アルバムです。タイトルの読み方は「ニャンニャンオェー」のようです。あのちゃんは犬か猫かというと猫キャラでしょうし、オェーもまたあのちゃんらしい。タイトルのつけ方がキャラクターにマッチしていて秀逸です。

 本作品にはメジャーデビュー以降に発表されたシングル曲と新曲が収録されています。加えて、2019年のソロ転向以降、メジャー入りする前に発表していたシングル曲6曲と当時の未発表曲1曲の7曲入りCDが添付されて2枚組仕様になっています。丁寧な仕事です。

 あのちゃんのテレビへの露出が増えたのは最近のことですけれども、あのちゃんがゆるめるモ!のメンバーとしてデビューしたのはもう10年以上前のことです。この間、あのちゃんは悪魔のアイドルとしてカリスマ的な人気を博していたのでした。

 ゆるめるモ!はキング・オブ・ノイズ、非常階段などとコラボレーションするなど、AKB系や坂道系のアイドルとはかなり佇まいが異なっておりました。音楽的にも一線を画しており、本作品に楽曲を提供しているアーティストたちと親和性がもともと高かったといえます。

 要するに何が言いたいかというと、本作品はあのちゃんのデビュー・アルバムではありますけれども、これまでの活動の蓄積の上に立って、しっかり自分自身でコントロールできているベテランの風格漂うアルバムだということです。参加アーティストもみんなファンなのでしょう。

 参加しているアーティストには、ヒット曲「ちゅ、多様性」をあのちゃんと共同で作り上げた相対性理論の真部修一、つき合いが長いという神聖かまってちゃんのの子、水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミ、クリープハイプの尾崎世界観などの有名な人もいます。

 また、ボカロPのチノゾーやアニメやゲーム音楽を手掛けるアンカー、そしてソロ・デビュー以来の楽曲を手がける、これまたゲーム音楽などで有名なタクイノウエと、今や日本の音楽の中心ともいえるゲームやボカロなどの世界からの参入が目立ちます。

 こうしたアーティストたちを従えた形であのちゃんが詞を書き、曲を作り、歌う。曲の提供を受ける場合にもしっかりとあのちゃんの意向が伝わっています。歌詞の世界も一貫しており、生きにくい世の中を不器用に生き抜いている感覚が真摯に綴られます。

 宇佐見りんの「推し、燃ゆ」は「Tik-Tok世代のキャッチャー・イン・ザ・ライ」と評されていますが、あのちゃんの世界もそのような受け止め方をする人が多いことでしょう。姿勢としてはパンクそのもので、カリスマっぽくてとてつもなくかっこいいです。

 サウンドは軽やか派パンクとでもいえばいいでしょうか。パンク時代にブロンディを初めて聴いた時の感覚を思い出しました。肩がふっと軽くなる。メジャー前の先鋭的なところはやや薄れたものの、その分、さらにこなれたサウンドとなって風格が際立ちます。

Nyan Nyan Owe / Ano (2023 Toy's Factory)



Tracks:
(disc one)
01. 猫吐序曲
02. 猫吐極楽音頭
03. ちゅ、多様性
04. 涙くん、今日もおはようっ
05. 普変
06. AIDA
07. コミュ賞センセーション
08. スマイルあげない
09. Tell Me Why
10. ンーィテンブセ
11. 鯨の骨
(disc two)
01. デリート
02. Peek a boo
03. Sweetside Suicide
04. アパシー
05. 絶対小悪魔コーデ
06. F Wonderful World
07. イート・スリープ・エスケープ

Personnel:
あの : vocal
Taku Inoue, Hiroki Suzuki : guitar, bass
小川幸慈、Takuya Nakayama : guitar
真部修一、中尾憲太郎、河野岳人 : bass
西澤謙助、BOBO : drums
永山ひろなお : piano, strings arrangement
宮原ひとみ、渡辺ほのか : chorus
広瀬和奏 : sound production on 1-08