ジャケットに写る女性はリビーおばさんです。彼女は本作品、スーパートランプの「ブレックファスト・イン・アメリカ」のプロモーションのために来日しています。歌番組だったかバラエティ番組だったか、確かに彼女をテレビで見た記憶が残っています。

 このリビーおばさんのおかげでしょうか、本作品は全世界で2000万枚に届かんとするウルトラ・メガ・ヒット作品になりました。まあ売れに売れたから彼女が来日したのでしょうけれども、突然の大ヒットにスーパートランプもレコード会社もうろたえ気味だったのでしょう。

 今作は前作をさらに突き詰めて、いよいよイギリス的な仕方でアメリカと正面から向き合いました。ジャケットはいかにもイギリス的なユーモアに溢れたもので、背後にみえるマンハッタンはすべてキッチン用品で出来ています。リビーおばさんはもちろん自由の女神です。

 プログレ色はほぼなくなってしまい、完全なポップ路線となっています。イギリスで言えばエレクトリック・ライト・オーケストラ、アメリカで言えばスティックスと同じような位置にいたものと思います。プログレからポップへの移行組と言えば分かりやすいでしょう。

 リック・デイヴィスとロジャー・ホジソンのバランスも前作を踏襲して、ほぼ両者の作品が交互に並びます。両者の持ち味も前作の路線をさらに推し進めていて、どんどん乖離が大きくなってきました。ホジソンのポップ指向が極まってきたことが大きいでしょう。

 メガヒットだけあって、この作品からは4曲がシングル・カットされ、中でも「ロジカル・ソング」と「ロング・ウェイ・ホーム」が全米トップ10入りする大ヒットを記録しています。また、表題曲はアメリカではシングル・カットされませんでしたが、日本やイギリスでは大ヒットしています。

 これら三曲はこのアルバムを思うときに誰もが思い浮かべる代表曲で、いずれもホジソンの持ち味が全開の楽曲です。残りの一曲「グッドバイ・ストレンジャー」はデイヴィスの曲なのですが、そこそこのヒットにとどまってしまいました。自信作でしたが。

 スーパートランプはデイヴィスとホジソンのバランスの上に立ったバンドですから、こうした結果はいかにも不協和音を巻き起こしそうです。デイヴィスはホジソンの曲が気に入らず、アルバム収録すら渋っていたといいますから、心中穏やかではなかったことでしょう。

 閑話休題。私も「ロジカル・ソング」と表題曲は大好きでした。ホジソン派です。前者の形容詞を並べたいかにもイギリス人っぽい歌詞が斬新で小粋な感じがしたものですし、表題曲でのボードヴィル調のサウンドもこじゃれていて素敵でした。いつまでも耳に残ります。

 この作品は程よい英国風味がアメリカで受けたのではないかと思います。サウンド全体がブリティッシュ・アクセントな感じがしますし、歌詞の世界もとてもシニカルです。しかし、他の英国ポップ・バンドのようにやり過ぎな感じがありません。ちょうど良いブリティッシュ。

 1980年代のサウンドを予見する完成度の高いポップ・サウンドだったと思います。全米6週連続1位の記録は伊達じゃありません。フランスでは史上最も売れた英語アルバムだと言いますから面白い。バンド史の特異点となる作品は何かと話題が豊富です。

Breakfast in America / Supertramp (1979 A&M)

*2014年11月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Gone Hollywood あこがれのハリウッド
02. The Logical Song
03. Goodbye Stranger
04. Breakfast In America
05. Oh Darling
06. Take The Long Way Home
07. Lord Is It Mine すべては闇の中
08. Just Another Nervous Wreck 神経衰弱を吹き飛ばせ
09. Casual Converations 退屈な会話
10. Child Of Vision

Personnel:
Rick Davies : vocal, keyboards
Roger Hodgson : vocal, keyboards, guitar
John A. Helliwell : woodwind
Dougie Thomson : bass
Bob C. Benberg : drums
Russel Pope : cocert sound engineer