スーパートランプの5作目「蒼い序曲」です。前作が米国制作の英国仕上げでしたけれども、本作品は仕上げも含めてアメリカで制作されました。この頃にはメンバーも米国に移住しており、税金対策の側面もありつつも本格的な米国進出を図ったと言えます。

 前作が気乗りしないままに制作された様子だったのに対し、本作品はまずはロサンゼルスを離れてデンバー近くのカリブー・ランチにて制作を開始していますから、気合も入っていたということなのでしょう。不退転の決意でのアメリカ進出です。

 ジャケットがいいです。実際にピアノを雪山に持ち込んで、嵐の後に撮影されたものだそうです。ピアノには「蒼い序曲」と題された楽譜が置かれていますけれども、実際には米国国歌の譜面なのだそうです。そんなことを確かめる人もいるのですね。天晴です。

 本作品もこれまで通り、作曲クレジットはリック・デイヴィスとロジャー・ホジソンの連名になっていますけれども、実際はそれぞれの単独作で、今回はそれが綺麗に交互に並んでいます。ホジソンが4曲、デイヴィスが3曲、ややホジソン寄りでしょうか。

 私はこの作品の中の「ババジ」がそれはもう好きで好きで。スーパートランプといえば「ババジ」です。この曲との出逢いはテレビでした。近畿放送の誇る洋楽番組「ポップス・イン・ピクチャー」にて何度も流されたMVは秀逸でした。ユーチューヴに見当たりませんが。

 なぜにシングル・カットもされていないアルバム曲が数少ない洋楽テレビ番組で流されたのか謎ですが、ホジソンの手になる美しいメロディーの楽曲で、カラオケ映えしそうなボーカルが何とも言えません。タイトルが関西方面では口にしにくいのが珠に傷でしたが。

 「ババジ」はB面の冒頭で、デイヴィスのこれまた名曲「フロム・ナウ・オン」に続きます。ホジソンの幻想的で切ない「ババジ」から、放浪者というバンド名さながらのアメリカンな物語をデイヴィスが落ち着いて歌う流れは秀逸です。バンドの個性が最大限に生かされています。

 本作品の魅力はこの2曲に凝縮されているように思います。本格的な米国進出となって、プログレ風味はかなり後退し、パワーAORスタイルにシフトしてきました。その機微がこの2曲の流れの中に表れています。両方の魅力が自然に共存しています。

 もっとも本作品の中でシングル・カットされたのは「少しは愛を下さい」です。ホジソンのポップで明るいメロディーが楽しい楽曲で、何と全米トップ20に入る、当時のスーパートランプとしては最大のヒット曲になりました。確かに米国向けのポップさです。

 ただ、英国風味は抜けることなどありません。米国では英国アクセントの娼婦が人気があるという逸話を思い出しました。スーパートランプの成功は、こうした米国人の英国コンプレックスにもその秘訣があるような気がします。ホジソンの曲が人気あるのも分かります。

 本作品の狙いは過たず、英国で12位、米国でも16位と大ヒットとなりました。次作がウルトラヒットになったおかげで目立ちませんけれども、これまでのスーパートランプの集大成でもあり、私にとっては彼らの作品の中ではいちばん好きな作品です。

Even In The Quietest Moments... / Supertramp (1977 A&M)

*2014年11月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Give A Little Bit 少しは愛を下さい
02. Lover Boy
03. Even In The Quietest Moments この静寂の時でさえ
04. Downstream
05. Babaji
06. From Now On
07. Fool's Overture 蒼い序曲

Personnel:
Roger Hodgson : vocal, keyboards, guitar
Rick Davies : vocal, keyboards
Dougie Thomson : bass
John Anthony Helliwell : wind instruments, vocal
Bob C. Benberg : drums, percussion