スーパートランプの四作目「危機への招待」です。前作「クライム・オブ・センチュリー」が大ヒットしたために、その余韻の冷めないうちに次のアルバムを発表せよとのレコード会社の期待にこたえて制作されました。最初の2枚がさっぱりでしたから、これは否みがたいです。

 それに前作をサポートするツアーの最中にロジャー・ホジソンが怪我をしたために以降のツアーがキャンセルされてしまいましたから、図らずも時間が出来てしまいました。こうなるともはや否が応でもアルバムをつくらなければなりません。言い訳はできない。

 こうしてスーパートランプはハリウッドのA&Mスタジオ入りしてアルバム作りが始まりました。この段階では彼らにアルバムのコンセプトは全く見えていなかったようです。ジャムバンドならばそれでもよいのでしょうが、彼らの場合にはなかなか厳しい状況です。

 しかし、前作制作時には大量に曲を書いていましたから、曲のストックは問題ありません。せかされてスタジオ入りしたことでなかなか気分が上がらなかった様子です。何と贅沢でしょう。メンバーも安定してヒットに恵まれた状況に慣れなかっただけなのかもしれませんが。

 アルバムは「危機への招待」と、どうかと思う邦題がつけられています。原題は「クライシス?ホワット・クライシス?」です。これはフレデリック・フォーサイス原作の映画「ジャッカルの日」の決め台詞なのだそうです。「危機だって?何が危機なんだ?」、でしょうか。

 ジャケットにはそれを体現した、危機に瀕しても泰然としている人物が描かれています。インドの屠畜場にて、水牛が殺されている隣でのんびりと草を食べながら順番を待つ水牛を見て何ともいえない気持ちになったことを思い出します。それも正解ですかね。

 このタイトルには彼らのアルバム作りに対する後ろ向きの姿勢が表れているようです。表題曲がアルバムに含まれていないこともその一つの証左でしょう。このラインで歌詞を書いてしまうと何も良いことがなさそうです。無駄ないさかいは避けるが無難です。

 サウンドはずいぶんドラマチックになりました。もともとプログレ路線でデビューしたスーパートランプはどんどんポップな方向に変化していきましたけれども、本作品ではポップが基調ながらもプログレっぽいドラマ仕立てのサウンドが強くなってきました。

 本作品がスーパートランプ初の米国録音だとは思えないようなサウンドです。まあ明るいは明るいのですが。外国に行くと母国のアイデンティティが強まるのは誰しもが経験することですから、スーパートランプの英国人魂に火が付いたのでしょうか。

 制作時の事情から当初はメンバー各位の本作品への評価はかなり低かったようですが、今となっては結構気に入っている様子です。目立ったヒット曲もありませんし、前作ほどにはヒットしませんでしたけれども、その分地味にまとまったアルバムですから。

 歌詞カードにはあいかわらずリック・デイヴィスとホジソンそれぞれのパートが明記されています。今回は2曲でデュエットもあり、お互いの良いところが地味に絡み合って素敵です。ジョン・ヘリウエlルのクラリネットとサックスが大きくフィーチャーされているのもポイント高いです。

Crisis? What Crisis? / Supertramp (1975 A&M)



Tracks:
01. Easy Does It
02. Sister Moonshine
03. Ain't Nobody But Me
04. A Soapbox Opera
05. Another Man's Woman
06. Lady
07. Poor Boy
08. Just A Normal Day
09. The Meaning
10. Two Of Us

Personnel:
Roger Hodgson : vocal, guitar, keyboards
Bob C. Benberg : drums, percussion
Dougie Thomson : bass
John Anthony Helliwell : wind instruments, vocal
Richard Davies : vocal, keyboards