原因は前作の後、勝手にツアーを止めてしまったことにあります。勝手にキャンセルしたのですからレコード会社もそりゃ怒ります。発生した赤字を埋めなければならないわけですから、会社側が新作が売れるように口を出してもいいはずだと思ったとしても責められません。
会社側はジャパンやロキシーをてがけて時の人となっていたスティーヴ・ナイをプロデューサーに立てますが、出来上がった作品はヒットしそうなシングル曲がないとして没。パートリッジは慌ててシングル曲を書き足します。先行シングル「グレイト・ファイヤー」です。
この曲はナイがつかまらなかったため、ザ・フォールでお馴染みのボブ・サージェントがプロデュースしています。しかし、この曲は思ったほど売れませんでした。そこでヴァージンは大御所アレックス・サドキンにシングル候補曲のリミックスを依頼します。
いくつかの候補曲の中から「ワンダーランド」がシングル発売されましたが、これまた売れません。アルバムの発売延期も話し合われましたが、何とかアルバム「ママー」が陽の目を見ました。まあお蔵入りにするよりは少しは資金を回収した方がよいという判断だったんでしょう。
さらにドラムのテリー・チェンバースがライブやらないならつまらないと脱退してしまいます。３人組となったＸＴＣは、ドラムにピーター・フィップスをゲストに迎えます。前座バンドにいた人です。ジャジーな軽い感覚をサウンドにもたらしていて、これが思わぬ掘り出し物でした。
サウンドにうるさいＸＴＣですけれども、意外なことにプロデューサーによってかなり音が変わります。今回も前作に比べると音の感触がかなり違っているように思います。前作に比べると骨太なサウンドになっており、以前の姿に戻ったような気もします。
それにレコード会社にいじくりまわされたにしては、意外とシンプルなアレンジが多くて、やり過ぎの度合いが低いだけにとても聴きやすいと思います。セールスは奮いませんでしたし、ファンの間でも評価が高いわけではありませんが、とても素敵な作品です。
アルバムの白眉はコリン・ムールディングの楽曲「ワンダーランド」です。サドキンのリミックスが利いているのか、これまでのＸＴＣらしくないぽわぽわしたラブソングで、メロディーもリズムも牧歌的で美しい。ＭＶは画質が悪いですが、不思議の国のアリスっぽくてかわいい。
農夫の給料では愛も育めないという無茶苦茶皮肉たっぷりの「ラヴ・オン・ア・ファーム・ボーイズ・ウェイジズ」なんていう曲もあれば、最後を締めくくる元気のいい「ファンク・ポップ・ア・ロール」で本作品以降のアルバムの方向性を示唆してもいます。
レコード会社に迷惑かけた分、少し頭を低くして臨んだアルバムゆえに、派手さはありませんけれども、佳曲が並ぶ素敵なアルバムになりました。もはやパンク的な性急さは影を潜め、ポップな姿が際立ってきていて、これはこれで私は大好きです。
Mummer / XTC (1983 Virgin)
*2013年7月11日の記事を書き直しました。
Tracks:
01. Beating Of Hearts
02. Wonderland
03. Love On A Farmboy's Wages
04. Great Fire
05. Deliver Us From The Elements
06. Human Alchemy
07. Ladyvird
08. In Loving Memory Of A Name
09. Me And The Wind
10. Funk Pop A Roll
(bonus)
11. Frost Circus
12. Jump
13. Toys
14. Gold
15. Procession Towards Learning Land
16. Desert Island
Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, sax
Colin Moulding : bass, vocal
Dave Gregory : guitar, keyboards, vocal
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Terry Chambers : drums
Pete Phipps : drums
Steve Nye : synthesizer, mellotron
Gavyn Wright : strings
Nigel Warren-Green : strings
Hans The Wind : de vente
Vince Sullivan : trombone