かつて、「頑張れベアーズ」という映画がありました。1976年暮れに公開されて日本でも大ヒットしました。主人公のテイタム・オニールがとても可愛らしかったですね。その余韻がまだ漂っている中、XTC初の大ヒット曲が誕生しました。「頑張れナイジェル」です。

 両者の英語名は全く何の関係もありませんし、邦題をつける際に多少は意識されていたのか全く定かではありませんが、当時、私の頭の中では自然に結びついておりました。まあナイジェルさんは子どもというわけではなくて、働いていらっしゃるわけですけれども。

 XTCの三枚目のアルバム、「ドラムス・アンド・ワイアーズ」は、お隣から中国人ウェイターが文句を言ってくる中、便所のない場所でリハーサルを行い、お隣からイアン・アンダーソンが文句を言ってくる中、便所の壊れたスタジオで録音されました。

 前作まで奇怪なキーボードでバンドのサウンドを独特ならしめていたバリー・アンドリュースは脱退し、後任に「彼女はサイエンス」のトーマス・ドルビーの名前も挙がったものの、結局ギタリストのデイブ・グレゴリーが入りました。ビートルズと同じバンド編成ですね。

 さらにプロデューサーも代わりました。後に5回もグラミー賞を獲得する名プロデューサーのスティーブ・リリーホワイトの登場です。しかもエンジニアはこれまた名プロデューサーとして名高いヒュー・パジャムです。二人にとって、このプロデュースは最初期の作品といえます。

 本作品の発表に先駆けて、リード・シングルとして「ライフ・ビギンズ・アット・ザ・ホップ」が発表され、そこそこのヒットを記録しました。アルバムにはボートラ収録ですが、とてもストレートなポップの名曲で、私のXTC楽曲トップ10には確実に入ります。本当にいい曲です。

 続くシングルは「頑張れナイジェル」で英国ではトップ20に入るXTC最大級のヒットです。続いて、米国オンリーで「テン・フィート・トール」がシングル・カットされています。結局、シングル・カットされたのはこの3曲でいずれもコリン・ムールディングが作った曲です。

 しかし、本アルバム全12曲中ムールディングの曲は3曲のみで、残り9曲はすべてアンディ・パートリッジの楽曲です。パートリッジの楽曲はすぐにそれと分かる特徴的なメロディーですし、半端なくひねってきます。そして、それこそがXTCの特徴になっています。

 ムールディングの作る素直でキャッチーな曲にもひねりが加わっています。とはいえ、この頃はまだ精力的にライヴもやっていた頃ですから、ひねったとしてもライヴを考えたひねりになっています。その意味ではライヴ感覚の残る賑やかな脱構築ポップといえるでしょう。

 XTCは、この作品で驚くべきことに米国でもチャートインしました。トップ200ですけれども。手ごたえを感じた彼らはアルバム収録の「テン・フィート・トール」を録り直して米国でシングル・カットし、それをひっさげて1980年2月から米国ツアーも開始しました。

 しかし、案の定と言いますか、とてもディープに英国的なバンドですから、米国で売れるはずがありません。とはいえ、面白いことにニュージーランドやカナダではこのアルバムが結構売れたということです。ポップなのに国を選ぶといいますか聴衆を選ぶバンドです。

Drums and Wires / XTC (1979 Virgin)

*2013年7月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Making Plans For Nigel
02. Helicopter
03. Day In Day Out
04. When You're Near Me I Have Difficulty
05. Ten Feet Tall
06. Roads Girdle The Globe
07. Real By Reel
08. Millions
09. That Is The Way
10. Outside World
11. Scissor Man
12. Complicated Game
(bonus)
13. Life Begins At The Hop
14. Chain Of Command
15. Limelight

Personnel:
Andy Partridge : vocal, guitar, synthesizer, percussion
Colin Moulding : vocal, bass
Dave Gregory : guitar, chorus
Terry Chambers : drums
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Dick Cuthell : flugelhorn