何とも甘酸っぱい青春の思い出です。東京ロッカーズはバンド名ではなくて、ここに収録されているS-Kenを中心とした一連のバンドによる「東京にもパンクを!」運動の名称です。ニューヨークやロンドンで起こったパンクの東京版を目指した動きです。

 このアルバムには、フリクション、ミスター・カイト、リザード、ミラーズ、S-Kenの5つのバンドが収録されています。いずれも東京ロッカーズの代表選手ばかりです。他にもバンドはあったわけですが、結局、この5バンドこそが「東京ロッカーズ」と同義になってしまいました。

 これは新宿ロフトで1979年3月に行われたイベントのライブ録音です。私は残念ながらこのイベントそのものには参加していませんが、一度だけ同じ新宿ロフトに東京ロッカーズのライブを見に行ったことがあります。下宿から歩ける距離にあったんですよね。

 そのライブには、ここに収められた5バンドの他に、音楽評論家としても活躍していた鳥井ガクのバンド、ペインが加わった6バンドの共演でした。最後は全員によるジャムが行われ、S-Kenこと田中唯士の「はい、おしまい」の一声で終わりました。

 一際印象深かったのはやはりフリクションでした。ツネマツマサトシのパンク・スライド・ギターに、レックのかみそりベースはひたすら凄かったです。ミスター・カイトも強く印象に残っています。テレビジョンに似た雰囲気でしたが、紅一点のジーンはしびれるほど格好良かった。

 新宿ロフトは一旦外に出ないとトイレに行けない不便な構造でしたけれども、そのトイレがステージのすぐ脇にある分、至近距離でステージを見られる余禄がありました。おかげでモモヨの迫力あるボーカルを至近距離で目撃することができました。

 しかし、「東京にパンクを!」と言うこと自体が、なんだかとてもパンク的ではないなあと当時から思っていたことも事実です。新時代を予感させつつも、新しい時代の始まりというよりは、1960年代から続くフォーク・ムーブメントの終わりという感じがしたものです。

 最後の全員でのジャムもいかにもゆるい雰囲気でした。強烈に仲間内のノリが感じられたんですね。しかし、別に仲間に入れてもらっていたわけではない私にもそういう雰囲気は伝染するもので、このアルバムへの懐かしさを強烈にしてくれています。

 当時感じたその何となくぬるい雰囲気はこの作品の中にも漂っています。しかし、その只中で、孤高の存在フリクションはとてつもなくクールです。名作とされている彼らのファースト・アルバムよりも、私はここでの鋭い録音の方が好きです。恐ろしいまでの切れ味です。

 逆にミスター・カイトはスタジオ・ワークが光る人たちで、ここでのライブも素晴らしいのですが、スタジオのぶきぶきした繊細さが捨てがたいです。是非ともスタジオでフル・アルバムを制作して欲しかったと今でも残念に思います。後にライヴ盤が発掘されるのですけれども。

 リザード、ミラーズ、S-Kenと続くところは「東京ロッカーズ」運動そのものです。ミラーズの「シチュエーション」の歌詞がその典型です。♪ぶーちぬけ!♪。何とも甘酸っぱい青春の思い出です。私には当時のアイドルの歌よりも青春を感じさせてくれます。

Tokyo Rockers / VA (1979 ソニー)

*2014年11月17日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. せなかのコード / Friction
02. Cool Fool / Friction
03. Exit B-9 / Mr. Kite
04. Robot Love / Lizard
05. Requiem / Lizard
06. Situation / Mirrors
07. TOKYOネットワーク / Mirrors
08. Innocent / Mr. Kite
09. Black Machine / S-Ken
10. ああ恋人~おお揺れ!東京 / S-Ken

Personnel:
Friction
レック : bass, vocal
ツネマツマサトシ : guitar, vocal
チコ・ヒゲ : drums
Mr. Kite
ジーン : vocal
アツシ : drums
タカシ : bass
ワク : guitar, vocal
Lizard
吉本”ベル”孝 : drums
塚本勝巳 : guitar
菅原”モモヨ”庸介 : vocal
中島幸一郎 : synthesizer
若林一彦 : bass
Mirrors
肥後宏 : drums, vocal
松本裕明 : bass, vocal
安藤篤彦 : guitar, vocal
S-Ken
富田”ネズミ”浩二 : drums
江口勝利 : bass
田中唯士 : vocal
増尾元章 : guitar