スパークスの3年ぶりのアルバム「ボールズ」です。オリジナルのCDジャケットはシンプルなデザインながら、赤緑青黄黒のバージョンが存在するというコレクター泣かせのアイテムです。本人たちが登場しないのは久しぶりのことでした。

 本作品は過去の楽曲のリメイク集となっていた前作よりも、その前、スパークス復活となったアルバム「官能の饗宴」の路線を引き継いだシンセ・ポップ・アルバムです。各楽曲は長くても5分程度とフォーマットからしても見事なポップ・ソングばかりです。

 クレジットされているミュージシャンはロンとラッセルのメイル兄弟の他には実質的にドラムのタミー・グローバーのみです。したがって、ドラムとラッセルのボーカル以外のすべてのサウンドはロン・メイルが作り出していることが分かります。

 アルバムは力強いタイトル曲で始まります。「官能の饗宴」に比べるとビートが重い。この当時のサウンドでいえばプロディジーなどに近い要素も感じるとの評に納得してしまいます。ペット・ショップ・ボーイズ路線からより攻撃的なビートへと進化しています。

 一方で、本作品から最初にシングル・カットされた曲は「モア・ザン・ア・セックス・マシーン」です。哀愁漂うメロディーをもった典型的なシンセ・ポップで、スパークスのソング・ライティングの素晴らしさとアレンジの巧みさが堪能できる逸品です。耳にこびりついて離れません。

 アルバムにはいかにもスパークスらしく「シェラザード」や「エアロフロート」などの固有名詞をタイトルにした楽曲や、「お尻の蹴られ方」と直訳した方がニュアンスが伝わりそうな皮肉な楽曲などで埋まっており、兄弟の元気な様子をうかがうことができます。

 この頃、スパークスは「官能の饗宴」に出演していたツイ・ハーク監督の映画で1998年に航海された「ノック・オフ」のサウンドトラックを担当しています。ジャン・クロード・ヴァン・ダムとロブ・シュナイダーが出演するアクション映画で日本でも公開されました。

 その映画のために作られた楽曲「イッツ・ア・ノックオフ」も本作品に収録されました。なんだかポップ・スター然としていていい話です。当該楽曲は映画のエンドロールに使用されていたとのことで、映画は未見ながら映画館にいるような気分になってきます。

 そんなこんなでアルバムはシンセ・ポップ・アルバムとして極めて充実していると思われるのですが、なかなか目論見通りにはいかないもので、本作品はヒット・チャート的には惨敗でした。これにはレコード会社も失望したことでしょう。ジャケットに金をかけたのに。

 前作は押しつけられたリメイク集ではあったものの、オーケストレーションの導入という新機軸が導入されました。一方、本作品は新曲ばかりの新作であるにもかかわらず、サウンド的には前々作の路線を踏襲したという意味では足踏みなのかもしれません。

 次作で大きく変化するスパークスの進化史に位置づけられてしまうと分が悪い本作品ですが、2022年にリイシューされるとマイナー・ヒットしたことからも分かる通り、単体としてみれば素敵なアルバムであることは間違いありません。スパークスに駄作なし、ですね。

Balls / Sparks (2000 Oglio)



Tracks:
01. Balls
02. More Than A Sex Machine
03. Scheherazade
04. Aeroflot
05. The Calm Before The Storm
06. How To Get Your Ass Kicked
07. Bullet Train
08. It's A Knockoff
09. Irreplaceable
10. It's Educational
11. The Angels

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keybords, programming
Tammy Glover : drums
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Aksinja Berger, Amelia Cone : voice