ワーナー・ブラザーズによる無断発売シリーズ第二弾は、その名も「スリープ・ダート」。眠りの泥とはなんとまあ、目やにのことです。目やになんて名前が凄い。表題曲は、もともとは「スリープ・ナプキン」が原題ですから、どういう心境の変化で変えたんでしょうか。

 ジャケットは前作同様ゲイリー・パンターが描いています。「ゴジラ対ヘドラ」に出てくる恐怖の公害怪獣ヘドラに似ていますが、意識されていたのかどうかは分かりません。ベッドから泥が降りてくるという題名通りとも言えます。こんな目やにがあったら怖いですね。

 このアルバムはオリジナルLPでは演奏者のクレジットも一切ありませんでした。謎だったわけです。しかし、CD化に際してめでたくクレジットも入りました。さらに、オリジナルでは全編インストゥルメンタルだったんですが、CD化の際に3曲にボーカルが加わりました。

 「フラムベイ」、「スパイダー・オブ・デスティニー」、「タイム・イズ・マニー」の3曲なんですが、これはもともと「グランド・ワズー」の頃にザッパが書き上げたミュージカル・コメディー「ハンチェントゥート」のために書かれた曲で、ボーカル入りが構想されていたんだそうです。

 ボーカルはタナ・ハリスです。彼女は、ザッパ先生をして長年探し求めてきたこれらの曲のためのボーカリストだと言しめました。ナイトクラブやカクテル・バーのちょっと退屈な歌手のように歌えるからという何とも言えない理由なんですね、これが。

 さて、その3曲、CD化に際してボーカルが付け加えられただけではなく、ドラムもオリジナルのチェスター・トンプソンから、オーバーダブ時のザッパ・バンドのドラマー、チャド・ワッカーマンに差し替えられています。これはどういうことなんでしょうか。

 本作品は、別名「ホット・ラッツ3」と呼ばれます。名作「ホット・ラッツ」第三号ですからこれは名誉ある称号です。オリジナルが全編インストゥルメンタルだったこと、ザッパ先生のギターが堪能できること、この2点が大きい。アコースティック・ギターも弾いていて、カッコいいです。

 制作は74年から76年にかけて行われていまして、ドラムで言えば、チェスター・トンプソン時代からテリー・ボジオ時代にかけての制作です。ジョージ・デュークやルース・アンダーウッド、パトリック・オハーンにジェイムス・ヨウマンなんていうところが参加しています。

 CDでは、7曲中3曲でボーカルが入りましたから、「ホット・ラッツ」感が薄れてしまいました。しかし、日本公演でも華やかにオープニングを飾った「フィルシー・ハビッツ」や、復刻された「レザー」では冒頭を飾る映画音楽のような「レジプシャン・ストラット」など名曲揃いです。

 アルバムの最後を飾るのは13分にわたって激しく燃える「ジ・オーシャン・イズ・ジ・アルティミト・サリューション」ですし、その直前には先生自身がスタジオでのギター・ソロの中で唯一納得のいく演奏だと語る「スリープ・ダート」が置かれています。いいアルバムなんです。

 ザッパ先生の他のアルバムに比べると、電子室内楽であるとともにジャズ・ロック的な雰囲気が漂っているところが耳を惹きます。ボーカル曲の古くてけだるいジャズ風とインスト曲の新しいジャズ風とがうまく絡み合った素敵な作品です。先生の作品にはずれはありません。

Sleep Dirt / Frank Zappa (1979 DiscReet)#025

*2012年12月29日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Filthy Habits
02. Flambay
03. Spider Of Destiny
04. Regyptian Strut
05. Time Is Money
06. Sleep Dirt
07. The Ocean Is The Ultimate Solution

Personnel:
Frank Zappa : guitar, keyboards, synthesizer
Thana Harris : vocals
Dave Parlato : bass
Patrick O'Hearn : bass
James "Bird Legs" Youman : bass, guitar
George Duke : keyboards
Terry Bozzio : drums
Chester Thompson : drums
Chad Wackerman : drum overdubs
Ruth Underwood : percussion
Bruce Fowler : all brass