創作アーチストのんによるセカンド・アルバム「パーシュー」です。「あまちゃん」で国民的女優になったのんも、あれから10年、30歳を迎えました。本作品は彼女の波乱万丈の20代を総括する充実した内容となりました。「荒野に立つ」のん、かっこいいですね。

 ファースト・アルバム「スーパーヒーローズ」から5年、ファースト・ミニアルバムの「ベビーフェイス」からでも4年。しかし、その間、大友良英とサチコMとの「のんとも。M」名義のアルバムやら配信限定のリリースなどが続いていましたから、さほどブランクは感じません。

 ただ、本作品を聴いてみて、のんの声が渋くなったことに驚きました。本作品だと「むしゃくしゃ」あたりがかつてののんの歌声なのですが、冒頭の「ビューティフル・スターズ」などは別の人が歌っているのかと思ってしまいました。これはこれでかっこいいですけれども。

 本作品はのんによれば「太陽のようにギラギラとエネルギーを放つ人間の、内なる弱さや脆さを表現すること」がテーマになっています。これまでとにかく前向きな面しか見せてこなかった自分を見つめ直して、「個人的でエモーショナルな面を追求したくなった」とのことです。

 ジャケットからして、これまでの面白要素は消えてよりシリアスになりました。ファインアートと商業美術など「複数の領域を往来するアーティスト」、ヨシロットンとのコラボで表現した世界は「月と太陽という両極端な魅力を表現」したものです。これまたかっこいいです。

 アルバムの内容は、アルバム発表に向けて、すでに発表されている楽曲、忘れらんねえよの柴田隆浩が提供した「この日々よ歌になれ」、アジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文の曲「ビューティフル・スターズ」に加えて少し前に制作された曲も含まれています。

 キリンジの曲のカバーを元メンバーの堀込泰行とのデュオで演奏した「エイリアンズ」、柴田による「わたしは部屋充」、鹿児島テレビの番組テーマソング「ナマイキにスカート」がそれです。後者はミニアルバム同様ゴーゴー7188のノマアキコが参加しています。

 そして話題になったのはCDのみボートラ収録の「ノック・ノック」です。2018年に収録されていた曲で、コーラスに先日逝去された高橋幸宏が参加しています。本作品の発売日は高橋の誕生日に設定されており、のんの高橋へのリスペクトを十二分に感じます。

 アルバムの大半を占めるのは、のんのバンドのんシガレッツのギタリストひぐちけいとの曲です。ひぐちがアレンジも担当しており、のんとのギターバトルも聴かせるロック・バンド仕様の楽曲ばかりです。伝統的な意味でのロック・バンド的アプローチがすがすがしいです。

 そのひぐちの姉でシンガーソングライターのヒグチアイによる曲「荒野に立つ」がのんの20代の激動を象徴する曲としてエンディングに屹立しています。ボートラ「ノック・ノック」のみ飯尾芳史のプロデュースで今のJポップ仕様となっており、ボートラ扱いは正解でしょう。

 装飾の少ないストレートなロック・バンド仕様のアルバムなので、ある意味ではパンクを感じます。生身ののんをさらけ出して、裸で歌っているようなリアルがあります。そして、歌っていることが楽しくてしょうがないことが伝わってきて清々しい。いいアルバムです。

Pursue / Non (2023 Kaiwa(re))



Tracks:
01. Beautiful Stars
02. ナマイキにスカート
03. わたしは部屋充
04. 薄っぺらいな
05. エイリアンズ
06. 夢が傷むから(inspired by 東京百景)
07. こっちを見てる
08. 僕は君の太陽
09. Oh! Oh! Oh!
10. むしゃくしゃ
11. この日々よ歌になれ
12. 荒野に立つ
(bonus)
13. Knock Knock

Personnel:
のん : vocal, guitar
***
後藤正文、喜多建介、會田茂一、中島優美、キョウスケ、ひぐちけい、堀込泰行、カニユウヤ、柴田隆浩、飯尾芳史、吉沢衛 : guitar
山田貴洋、ノマアキコ、イガラシ、なかむらしょーこ、fou-toussi、越智俊介、根岸孝旨 : bass
伊地知潔、恒岡章、タイチサンダー、ナガシマタカト、小松シゲル、河村吉宏、屋敷豪太 : drums
渡辺シュンスケ、ヒグチアイ、斉藤有太 : piano
中村圭介、佐久間薫 : synthesizer
矢口博康 : sax
中島優美、堀込泰行、高橋幸宏 : chorus
吉田篤貴、大島世菜 : strings
井上陽介、會田茂一、柴田隆浩、ひぐちけい、松岡モトキ、飯尾芳史 : producer