イエスのメンバーによるソロ・アルバム制作プロジェクトの大トリはやはりこの人、ジョン・アンダーソンです。さすがはジョン・アンダーソン、期待通りのソロ・アルバムを制作してくれました。題して「サンヒローのオリアス」、ジャケットも秀逸です。

 各メンバーがそれぞれ趣向をこらしたソロ・アルバムを制作する中、アンダーソンは自らが紡ぎだした物語を中心に据えて、すべての楽器を一人で演奏し、歌いまくるという完全なソロ・アルバムを制作しました。天晴としか言いようがありません。

 アンダーソンはストーリーの創作に全力を傾けています。災害に見舞われた惑星から新世界に旅立つオリアスを含む三人の主人公を中心とした壮大なサーガは、特殊仕様のジャケットの内側4面を使って詳細に描かれています。さらに詳しい本体もあるそうです。

 イラストはロジャー・ディーンかと思いきや、さにあらず。デヴィッド・ローというアーティストが描いており、ジャケット・デザインそのものはヒプノシスが担当しています。「こわれもの」で登場したスペースシップと軌を一にする点でコンセプチュアル・コンティニュイティーがあります。

 ここに創作を持ってくるところが、誰もが知る物語を据えたリック・ウェイクマンとの違いです。エンターテインメントに徹するというよりはアート寄り、プログレ道の鑑ともいえます。あまりに壮大過ぎてなかなか理解できないところが玉に瑕ですが、それもまた一興です。

 演奏面では、イエスでタンバリンくらいしか演奏していないアンダーソンですから、すべてを一人でこなしているのは驚きです。ただ、ドラムやギター、ピアノなどの練習が必要な楽器をばりばりと達者に弾きまくっているというわけではありませんから納得ではあります。

 しかし、本当に一人でやっているのか疑問を呈する人も多く、その疑いはヴァンゲリスに向けられました。実際、ヴァンゲリスは所属レコード会社に「勝手に人のアルバムに参加するな」と怒られたそうです。もちろん「身に覚えがない」と反論しています。

 時は1976年、まだまだシンセサイザーが登場して日が浅い時期です。素人が不慣れなシンセを扱えば、マエストロに似てくるのは当然でしょう。ヴァンゲリスはイエス入りの噂もありましたし、後にアンダーソンとコラボをしますから、仲もよかったことでしょうし。

 本アルバムは実に牧歌的な作品になっています。トラッド的な世界です。演奏は身の丈に合った柔らかなものです。大活躍するシンセサイザーが音の壁を作っていて、意外なことにトラッド・サウンドと大変相性がいいです。英国のカントリーサイドを感じます。

 また、当時のシンセサイザーはコズミックなサウンドが得意ですから、壮大な宇宙物語とも相性はよいといえます。アンダーソンの意図は見事に貫徹しており、イエスではやり過ぎだとメンバーに思われたであろうアンダーソン節がここでさく裂したのでした。

 アルバムは全英チャートでトップ10入りするヒットを記録しています。メンバーのソロ・アルバムの中でも最も売れた模様です。プログレッシブ・ロックの鑑ともいえる作品をたった一人で作り上げてヒットさせるとはさすがはアンダーソン、信念の人です。

Olias of Sunhillow / Jon Anderson (1976 Atlantic)

*2011年10月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Ocean Song
02. Meeting (Garden Of Geda) / Sound Out The Galleon
03. Dance Of Ranyart / Olias
04. Qoquaq En Transic / Naon / Transic To
05. Flight Of The Moorglade
06. Solid Space
07. Moon Ra / Chords / Song Of Search
08. To The Runner 走者

Personnel:
Jon Anderson