毎回兄弟がさまざまな扮装で楽しませてくれるスパークスです。兄がぼけとなることも多いですが、本作品では兄のロン・メイルが人形師、弟のラッセル・メイルがパペットとなって、兄弟の力関係を素直に表現しています。妙なシリアスさが漂います。

 本作品はスパークスのアトランティックへの4作目、通算13作目のアルバム「プリング・ラビッツ・アウト・オブ・ハット」です。前作での成功を足掛かりに、スパークスの全米での人気を確固たるものにしたいとするレーベルの期待を担ってのアルバムです。

 アトランティックはプロデューサーとして、デュラン・デュランの「セヴン・アンド・ラグド・タイガー」をアレックス・サドキンとともにプロデュースしたイアン・リトルを投入しました。ロンとラッセルのメイル兄弟はこれに同意しますが、結果は芳しくなかったようです。

 実際には1週間ほどでコラボレーションは決裂し、後はスパークス自身がプロデュースしたとも言われています。真相は分かりませんけれども、アルバムのサウンドは少しデュラン・デュラン的でもありますから、リトルの影響は案外大きかったのかもしれません。

 サウンドは前作に引き続いてシンセサイザーが全面的に活躍するシンセ・ポップです。これまたこの時代に流行したサウンドのスタイルに収まっています。しかし、前作に比べると軽やかさに欠けるところがあり、全体に英国的な暗さが漂っています。

 ラッセルはファルセットの使用をかなり控えており、落ち着いたボーカルを聴かせています。ここに重めのシンセ・ビートが加わり、ゴーゴーズとのコラボとは異なるデュラン・デュラン的な重苦しさが漂います。デュラン・デュランはそれでも華やかでしたが。

 アルバムからのシングル第一弾「プリテンディング・トゥ・ビー・ドランク」はなんとシャッフルです。さまざまなスタイルが試されていたこの時代としては驚くべきことではありませんけれども、前作の「クール・プレイス」からは大きな方向転換ではありました。

 結局、スパークスは前作の成功を足掛かりとすることには失敗し、本作品はチャート入りを逃してしまいました。英国では当時は発売もされていませんし、ヨーロッパ大陸でも成功からはほど遠い結果でした。なかなか固定ファンが広がらないスパークスです。

 バンドは前作とほぼ同じなのですが、本作品ではジャケ写からメンバーが消えています。スパークスはメイル兄弟だけになってしまったように感じます。ここまでシンセが活躍するとギターの存在意義も薄れていますから仕方がないのかもしれません。

 楽曲はいつものスパークス・クオリティーです。落ち着いて聴けばなかなかよいアルバムなのですけれども、前作に比べて元気がない感じは否めません。バンドの結束も弱まってきているようですし、低迷という言葉がよぎります。浮沈を繰り返すスパークスです。

 余談ですが、本作品発表前に兄弟は日本で休暇を過ごしており、その際にテレビ番組「ファンキー・トマト」に出演しています。そこで楽曲を紹介した際にロンにパイが投げつけられたのだそうです。前作のジャケットそのままですね。あくまでお茶目な兄弟でした。

Pulling Rabbits Out Of A Hat / Sparks (1984 Atlantic)



Tracks:
01. Pulling Rabbits Out Of A Hat
02. Love Scenes
03. Pretending To Be Drunk
04. Progress
05. With All My Might
06. Sparks In The Dark (Part One)
07. Everybody Move
08. A Song That Sings Itself
09. Sisters
10. Kiss Me Quick
11. Sparks In The Dark (Part Two)

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : synthesizers
Bob Haag : guitar, synthesizer, chorus
Leslie Bohem : bass, chorus
David Kendrick : drums
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John Thomas : keyboards