スパークスのアトランティック・レコードからの3作目、全体では通算12作目のアルバム「イン・アウター・スペース」です。ここのところ、バンド・メンバーも安定しており、年1回の順調なペースでアルバムを発表してきたスパークス、ついに全米でブレイクしました。

 本作品からのシングル「クール・プレイス」が全米49位のヒットを記録したんです。前作からの「アイ・プレディクト」が60位と予兆はありました。まだまだトップ40とまではいきませんが、スパークスとしては大きな成功です。MTVでもそのMVが大いに流れてきました。

 この曲では当時大人気だったガールズ・バンド、ゴーゴーズでリズム・ギターを担当していたジェーン・ウィードリンをゲスト・ボーカリストに迎え、ラッセル・メイルとのデュエットが実現しました。結果は1980年代前半のMTVに相応しい楽曲となりました。

 ウィードリンは自身でスパークスのファン・クラブを運営していたことがあるほど、スパークスに入れ込んでいたそうです。憧れのラッセルとのデュオだったわけです。そして、このデュエットはそれまでスパークスを聴いたことがなかった層にも届きます。

 スパークスはそのライヴも盛況となり、チャートの順位だけからは測り知れない人気を博しました。「キモノ・マイ・ハウス」後のイギリスでの人気、「ナンバー・ワン・イン・ヘヴン」後のフランスやドイツでの人気に加えてとうとうアメリカでも人気を獲得したのです。

 ほぼ10年前の「プロパガンダ」の方が順位は上とはいえ、アルバムも久しぶりにトップ100入りすることができました。長らくファンであった人々にとっては感慨深いものがあったことでしょう。ロンとラッセルのメイル兄弟も面目躍如たるものがあったでしょう。

 バンドは前作と同じ布陣ですけれども、前作と前々作ではギターが目立つロック・サウンドだったのに対し、本作品ではシンセサイザーが全面的に大活躍しています。とはいえ、重めのディスコ・ビートが目立ったジョルジョ・モロダーとの作品とは大きく異なります。

 初の完全セルフ・プロデュースであることも影響しているのか、本作品でのシンセの使い方は、1980年代前半シンセ・ポップの王道をいくものです。すなわち、MTVで繰返し流されてくる曲たちと同じカテゴリーに分類される軽めのピコピコ・リズムが目立ちます。

 常に一歩も二歩も先を行っていたスパークスが一旦立ち止まって同時代に受け入れられやすいサウンドを試してみたような、そんな感じのサウンドが中心です。独特の節回しや奇妙な歌詞の世界はそのままに売れ筋のサウンドが心地よいです。

 新しいファンには、ラッセルがフロントに立って「もう少し見た目がよかったら」などという歌を歌うスパークスは衝撃だったかもしれません。「クール・プレイス」に続くシングルは「君が考えていることはセックスだけ」でしたし。ここでスパークスに出合った人は幸せですね。

 イギリスではこの作品がまるで受け入れられなかったのは面白い現象です。シンセ・ポップはイギリスこそが本場だという自負があったのでしょうか。それともウィードリンとのデュエットは明るすぎたのでしょうか。なかなか万人受けしないところがスパークスらしいです。

In Outer Space / Sparks (1983 Atlantic)



Tracks:
01. Cool Places
02. Popularity
03. Prayin' For A Party
04. All You Ever Think About Is Sex
05. Please Baby Please
06. Rockin' Girls
07. I Wish I Looked A Little Better
08. Lucky Me, Lucky You
09. A Fun Bunch Of Guys From Outer Space
10. Dance Godammit

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : synthesizers
Bob Haag : guitar, bass, chorus, tab cans
Leslie Bohem : bass, chorus
David Kendrick : drums
James Goodwin : keyboards
Jane Wiedlin : vocal