ピンクの約1年ぶりに発表された3枚目のアルバム「サイコ・デリシャス」です。前作は古代の彫像でしたけれども、今回はキューピーさんのような可愛らしいイラストに変わりました。どちらもツクイ・トシナオによるデザインで、その振れ幅がいいです。

 私はピンクの前作が気になりつつもスルーしていたのですが、新作発表と聞いて心が動き、本作品をほぼリアル・タイムで入手しました。当時は日本に住んでいなかったこともあって、ずいぶん聴きこんだものです。福岡ユタカのボーカルがやけに胸に染みたんです。

 本作品の発表に先立って、デビュー作に収録されていた「ソウル・フライト」の英語版が英国でリリースされることになり、ピンクの面々は渡英してロンドンでライヴを行っています。同時にスティーヴ・ナイに12インチ・シングル曲のミックスを依頼もしています。

 日本語の歌が中心のバンドですけれども、もともと洋楽的なサウンドでしたから、英国でのリリースはさほど驚くべきことでもありません。ただ、まだまだロックの世界では国境の壁がそそりたっていましたから、この頃としては快挙であったといえるでしょう。

 ロンドンでのライヴは成功裡に終わったそうです。ホッピー神山によれば、その時のことで覚えているのは、たまたまクラブで遭遇したベイ・シティ・ローラーズのレスリー・マッコーエンが自ら名乗ってきたことだけなんだそうです。忙しかったんですね。

 さて、本作品ですが、ジャケットがポップになったからといってサウンドががらりと変わったわけではありません。基本的には前作、前々作の延長線上にある極上のピンク・サウンドで出来ています。サイバー・ファンクの佇まいは本作品でも健在です。

 ただし、この頃にはギターの渋谷ヒデヒロの体調がすぐれないことが多かったそうで、ゲスト・ギタリストの活躍が目立ちます。そのゲストとは、パール兄弟の窪田晴男、元チャクラの板倉文、元AB’sの松下誠の三人です。いずれも名のある人々です。

 ゲストには他にも、常連の吉田美奈子と横山英規、さらには民族楽器奏者として有名な若林忠宏が参加しています。若林は「シャドウ・パラダイス」と「スリップ・イントゥ・ファイヤー」で独特の音色を聴かせており、ピンクの無国籍風味を倍増させています。

 作曲は全曲が福岡ユタカの手になるのですが、本作品では二曲がホッピー神山との共作とクレジットされています。音楽王がいよいよ前に出てきました。作詞は福岡の他に吉田美奈子やデビュー作に参加していた宇辺セージ、御大近田春夫となっています。

 アルバムからは先行シングルとして発表された「キープ・ユア・ビュー」が日立マクセルのテレビCMに起用されています。マクセルのCMといえば山下達郎の「ライド・オン・タイム」やワム!などのメジャーどころが起用されることが多い印象ですから画期的ですね。

 冒頭の「ボディ&ソウル」から、ゆったりと大きく広がるサウンドが心地よいです。アルバム全体から、超絶技巧ソロを聴かせるというよりも、バンドとしてかっこいい音をひたすら追求していることが伝わってきます。汗が飛び散ることのないファンキーの極みです。

Psycho-Delicious / Pink (1987 ムーン)



Tracks:
01. Body And Soul
02. Naked Child
03. Keep Your View
04. Love Is Strange
05. Scanner
06. Shadow Paradise
07. Body Snatcher
08. Slip Into Fire
09. Electric Message

Personnel:
福岡ユタカ : vocal
矢壁アツノブ : drums
ホッピー神山 : keyboards
岡野ハジメ : bass
渋谷ヒデヒロ : guitar
スティーヴ衛藤 : percussion
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横山英規 : sax
吉田美奈子 : voice
窪田晴男、松下誠 : guitar
板倉文 : guitar, folklore instruments
若林忠洋 : folklore instruments
World Standard : chorus