ノア・クレシェフスキーはパリでナディア・ブーランジェ、ジュリアードでルチアーノ・ベリオに学んだというゴリゴリのアカデミックな現代音楽の作曲家です。しかし、その作品はツァディクや京都のEMレコードなどポピュラー寄りの癖のあるレーベルからリリースされたりしています。

 本作品はツァディクから発表されたクレシェフスキーの三枚目のCD「フォー・シーズン」です。ツァディクは米国のアヴァンギャルドな音楽家ジョン・ゾーンと日本の実験音楽家、杉山和紀によって設立されたレーベルです。大友良英や灰野敬二などの作品もリリースしています。

 1945年生まれのクレシェフスキーはまだ活動の初期にあたる1971年から電子音楽を作り始めます。電子音楽すなわちアヴァンギャルドな音楽だった頃で、この当時はアカデミックな世界の方がポピュラー音楽に大きく先行していた頃ですね。

 クレシェフスキーはやがて、ハイパーリアリズムないしはスーパーリアリズムと呼ばれる、リアリズムをどこまでも透徹する動きに同調し、彼独自のスタイル「ハイパーリアル・ミュージック」を始めます。シュールではなくハイパーないしはスーパーなところがポイントです。

 本作品も副題に「ハイパーリアリスト・ミュージック」と付されている通りのハイパーリアル・ミュージックが楽しめます。クレシェフスキーのリアルへのこだわりは、シンセサイザーによる合成音は一切用いず、生楽器や肉声など普通の環境に存在する音のみを使うことです。

 ここでも総勢27人のミュージシャンが楽器演奏ないしは肉声を披露しているとクレジットされています。しかし、それがそのまま使われているわけではありません。音自体を誇張したり、過剰にするような操作が施されます。操作を加えて切り刻み、再配置するわけです。

 しばしばクレシェフスキーがテープ・コラージュ・アーティストとして紹介される所以です。こう紹介されると現代音楽家とされるよりもぐっと親しみがわいてきます。テクノ/エレクトロニカで知られる竹村延和が絶賛しているのもポイントが高いです。

 全部で46分に及ぶ本作品はすべてがその切り貼りの結果です。ミュージシャンが演奏している楽器はクラリネットやサックス、トランペット、トロンボーンなどの吹奏楽器、ギター、ベースにドラム、バンジョーにバイオリン、そして声となっています。

 切り貼りの結果、楽器演奏は人間技では不可能なことになっているとのことです。ここは楽器演奏ができない私などにはぴんと来ないところですが、ボーカルの部分では妙な具合の日本語が聴こえてくるので、そこから推し量ることはできます。

 そのサウンドにはメロディーやリズムなどの要素があるようでないようで、何ともいえない不思議な気持ちになってきます。ユーモラスでもありますし、ポピュラー系の電子音楽と地続きであるようなないような。リアルなのかシュールなのか、もやもやがとても気持ちいいです。

 クルシェフスキーは自身の話法は誰にもなじみがあるものだとしています。サントラやCMが好例だといいます。映画の一場面で目を閉じると、音楽や音効、声や動作などが混ざって聴こえてくる。要するに私たちの世界はそのままハイパーリアルなんでしょうね。

The Four Seasons / Noah Creshevsky (2013 Tzadik)

見当たらないので、クレシェフスキーの別の作品をご参考まで。本作品とかなり違いますが、感じだけでも。



Tracks:
01. Summer
02. Interlude 1
03. Autumn
04. Interlude 2
05. Winter
06. Interlude 3
07. Spring

Personnel:
Sherman Friedland, Al Margolis : clarinet
Alex Kontorovich : clarinet, alto sax
Audrey Betsy Welber : tenor and alto sax
Teodross Avery : tenor sax
Ben Holmes : trumpet
Susan Watts : trumpet, voice
Monique Buzzarté : trombone
Ray Marchica, Gregg Mervine : drums
Adrian Banner : piano
Tomomi Adachi, Jeremiah Cawley, Amy Denio, Beth Griffith, Kathy Hanson, Chris Mann, Maria Mannisto : voice
Gary Heidt : guitars, voice
Rodney Jones, Marco Oppedisano : guitar
Rich Gross : banjo
Mari Kimura, Amy Zakar : violin
Orin Buck, Lonnie Plaxico, Heather Chriscaden Versace : bass