ツェッペリン初の2枚組です。キャリアを重ねてくると二枚組が作りたくなるものなのでしょうかね。ビートルズにはホワイト・アルバム、ストーンズには「メインストリートのならず者」、エルトン・ジョンには「黄昏のレンガ路」、スティービー・ワンダーには「キー・オブ・ライフ」!

 ツェッペリンの場合は、新作として録音した8曲がLP一枚には収まりそうになかったので、これまでの未発表曲7曲を引っ張り出してきて、めでたく2枚組になったという事情があります。CD時代であれば、考える余地なく1枚だけだったでしょうから、LPに感謝です。

 2枚組でありながら、全米チャートでは初登場3位、翌週から6週連続で1位となっています。そしてビルボード誌では旧譜5作がすべてホット100にランクインするというい前代未聞の記録を達成しています。まさにツェッペリン人気は最高潮に達していました。

 とはいえ、本作品に関して言えば、自らのレーベルであるスワン・ソングの立ち上げや、聖歌隊の指揮者になりたいという、狂乱のライブ生活に疲れたジョン・ポール・ジョーンズの脱退騒ぎなどがあって、制作にはかなり時間がかかってしまっています。

 しかし、それを逆手にとって、じっくりと仕上げられているため、このアルバムはツェッペリンの作品の中でも、その懐の深さをいかんなく発揮した作品になりました。さまざまな曲調を一つのアルバムにまとめて泰然としている。まさに横綱相撲です。

 ここでの注目は何と言っても「カシミール」でしょう。ジェイZによるリメイクが、アメリカ版の走る「ゴジラ」に使われて、私の中でも俄然第二の「カシミール」ブームが起こったことは記憶に新しいと思ったら、もう随分前のことになるんですね。

 ジミー・ペイジとジョン・ボーナム二人のセッションから誕生したこの曲には、ペイジの「CIAチューニング」が使われています。CIAはケルト、インド、アラビアを表しており、エスニックな風情を感じます。アンサンブルだけでクライマックスを作るツェッペリンを代表する名曲です。

 「トランプルド・アンダー・フット」はジョーンジーのクラヴィネットが活躍するファンク・チューン、「カスタード・パイ」はハード・ロック、「死にかけて」はブルースの改作、「ブロン・イ・アー」はトラッド調、「ダウン・バイ・ザ・リバー」はニール・ヤング調と見事なバラエティーです。

 しかし、曲調は様々なのに、アルバムとしてのまとまりは見事なものです。ロバート・プラントのまことに艶っぽいボーカルと、ボンゾのドスドスドラムが全てに対応していますし、多才なジョーンジーのプレイがアクセントをつけて、それをペイジ・リーダーが見事にまとめ上げる。

 そんな中には、6人目のストーンズ、ステュことイアン・ステュワートとのセッションが一曲入っています。あまりの見事なピアノだったために、これを生かさないわけにはいかないとして入れられましたが、どこか不遇なステュを大事にするところも横綱っぽいです。

 前作は少しポップになった気がしましたが、この作品はカラフルでありながらも、重厚長大路線に戻ったようにも思います。二枚組ですし、体力を大量に消費するフィジカルな傑作であると言えましょう。つけもつけたり「フィジカル・グラフィティ」。横綱です。

Physical Graffiti / Led Zeppelin (1975 Swan Song)

*2014年4月19日の記事を書き直した。



Tracks:
(disc 1)
01. Custard Pie
02. The Rover 流浪の民
03. In My Time Of Dying 死にかけて
04. Houses Of The Holy 聖なる館
05. Trampled Under Foot
06. Kashmir
(disc 2)
01. In The Light
02. Bron-Yr-Aur
03. Down By The Seaside
04. Ten Years Gone
05. Night Flight 夜間飛行
06. The Wanton Song
07. Boogie With Stu
08. Black Country Woman 黒い田舎の女
09. Sick Again

Personnel:
John Bonham : drums, percussion
Robert Plant : vocal, harmonica
Jimmy Page : guitar
John Paul Jones : bass, keyboards, mandolin, guitar, strings, brass
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Ian Stewart : piano