アーティスト名はふざけているわけではありません。1976年に初来日を果たしたフランク・ザッパ先生は本作品に大阪でのライヴ音源を収録した上に、裏ジャケットに漢字で名前を書いてくれました。最初で最後の来日コンサートの思い出が本作品に生きています。

 当時、まだ田舎の高校生だった私はそもそも先生のことなど知りもせず、貴重な機会を失ってしまいました。しかし見た人はいるもので、会社の先輩女性がライヴを見たのだと嬉しそうに語ってくれました。「すごくよかったわよ」ということでした。

 本作品を発表した当時、先生は前のマネージャー、ハーブ・コーエンと訴訟騒ぎの真っただ中にありました。そのおかげで、レコード契約もディスクリートから一時的にワーナー・ブラザーズに戻されており、本作品は直接ワーナーから発売されています。

 加えてリハーサル室への立ち入りを禁じられたり、テープの保管所を使用禁止になるなど大変活動しにくい状況に置かれていました。さらに40人近いオーケストラを結成しますが、レコード会社からは十分な協力が得られず、中途半端に終わってしまいます。

 「虚飾の誘惑」はそんな中で制作されました。当初は2枚組が計画されていましたが、あまりはっきりしない理由で1枚に圧縮されています。レコード会社との悶着があったのだろうと推測されます。ワーナーとの本格的な対立が近づいてきました。

 作品は、先生とお気に入りのドラマー、テリー・ボジオの二人が中心になって制作されています。先生は、いつものボーカルとギターに加えて、ベースやシンセ、キーボードも演奏しているので、ボジオのドラムがあればまずはバンドが完結します。

 曲によっては二人だけで全ての演奏をこなしているものもあります。他の曲も概ねこの二人に若干のゲストを加えた構成です。ルース・アンダーウッドやロイ・エストラーダ、キャプテン・ビーフハートなどの演奏が使われていますが、総じて役割は小さいです。

 一曲だけ例外があります。それが大阪でのライヴです。それが先生のギタリストとしての代表曲である「ブラック・ナプキン」です。これは嬉しいことです。大阪ライヴがよりによって名曲中の名曲「ブラック・ナプキン」のお披露目なわけですから。

 他にはビーフハートの私生活を歌った「拷問は果てしなく」やフュージョン風インスト「ズート・アリュアーズ」、ぴこぴことちゃらい「ディスコ・ボーイ」など、なかなかいい曲が並んでいます。しかし、それらの名曲は後に発表されるライヴ音源の方がこなれていてよかったりします。

 それにアルバムしてのまとまりにやや欠けることから、結果的に先生のファンの間でもあまり人気のないアルバムになってしまいました。まあ先生の全生涯が一つの作品なのですから、そんなことをいってもはじまりません。名曲たちを楽しむのみです。

 ジャケットには先生のまわりにボジオ、エディー・ジョブソン、パトリック・オハーンの美形3人をはべらせています。しかし、ジョブソンとオハーンは本作品制作後ジャケ写前に加入したにすぎません。要するにここでは演奏していない。何だか面白いジャケットです。

Zoot Allures / Frank Zappa (1976 Warner Bros.) #022

*2012年10月24日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Wind Up Workin' In A Gas Station
02. Black Napkins
03. The Torture Never Stops 拷問は果てしなく
04. Ms Pinky
05. Find Her Finer
06. Friendly Little Finger
07. Wonderful Wino
08. Zoot Allures
09. Disco Boy

Personnel:
Frank Zappa : vocal, guitar, bass, synth, keyboards, director of recreational activities
Terry Bozzio : drums, chorus
Davey Moire : vocal
Andre Lewis : organ, vocal
Roy Estrada : bass, vocal
Napoleon Murphy Brock : sax, vocal
Ruth Underwood : synth, marimba
Donnie Vliet : harmonica
Ruben Ladron de Guevara : chorus
Lu Ann Neil : harp
Sharkie Barker : chorus