日本中が興奮した2023年のWBCでした。もはやそのWBCの歌と認識されているのがジャーニーの「セパレート・ウェイズ」です。曲調が合うからというだけで番組のテーマ曲に選ばれたのだそうです。失恋の歌だなんて関係ない。確かにWBCによく合っていました。

 それにしても発表から40年を経てよみがえるとは大したものです。当時もシングル・カットされて全米トップ10入りしていますし、ジャーニーの代表曲といえばこの曲という人も多い曲ですが、こんなポテンシャルがあったことに改めて感激しました。

 この曲はMVがまた凄いです。スティーヴ・ペリー以下、メンバー全員がオーバー・アクションでスターになりきって歌います。まだMTVの初期の頃でしたが、その群を抜くお間抜け具合が素晴らしかったです。ここまで屈託がない作品は当時でも珍しかったです。

 この時期のジャーニーの魅力はそんな脳天気さにあります。音楽には、時代の屈託やら個人の業なんてものが現れてくるものですけれども、彼らにそういう気配は微塵もありません。その結果、彼らは軽薄だとされ、真剣な表現活動からは一線を画して捉えられがちでした。

 しかし、そんなことではジャーニーは揺るぎはしません。この天真爛漫さはもはや芸の域に達しています。徹底した脳天気さ。地球ではなく宇宙の表現。表現活動として高く評価されてよいと思います。そのことが時のテストに見事合格する結果につながっていると思います。

 本作品は「セパレート・ウェイズ」で始まるジャーニーの8作目のスタジオ・アルバム「フロンティアーズ」です。前作に引き続いて大ヒットしました。全世界では1000万枚を越えるヒットを記録しているモンスター・アルバムの一つになっています。

 前作に比べるとバラードの比重が減り、スペース・ロックと称された初期を彷彿させるハード・ロック路線が復活してきました。その象徴が「セパレート・ウェイズ」です。ただ、その直後に名バラード「マイ・ラヴ」を持ってくるなど、ヒット・メイカーらしい気遣いも感じます。

 ジョナサン・ケインはシンセを多用するようになりましたし、ニール・ショーンのギターもますます宇宙に舞いあがってきたようで、「トラブルド・チャイルド」でのアンサンブルなどには圧倒されました。初期のジャーニーの魅力を取り戻したかのようです。

 しかし、前作が上り調子だったのに対して、この作品は頂上で足踏みしている気がするのも確かです。迷いがなかった前作に対して、少し戸惑いが見られるようにも感じます。圧倒的に脳天気なのですが、脳天気でいいのだろうかと疑問を持ち出すとややこしい。

 後知恵が教えてくれるところによると、このアルバムの後、ペリーやショーンはソロ活動を始め、しばらくジャーニーとしての活動は途絶えてしまいます。成功というものの難しさを感じさせる話です。良いアルバムなのですが、終りの予感を秘めているところが複雑です。

 ところでこのアルバムは大ヒットしたにもかかわらず全米チャートで1位になることはありませんでした。マイケル・ジャクソンのモンスター「スリラー」に1位を阻まれたという被害者同盟の一員なのでした。ご愁傷様としか言いようがありません。

Frontiers / Journey (1983 Columbia)

*2014年3月13日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Separate Ways (Worlds Apart)
02. Send Her My Love
03. Chain Reaction
04. After The Fall 愛のおわりに
05. Faithfully 時への誓い
06. Edge Of The Blade 限りなき世界
07. Troubled Child
08. Back Talk 美しき叫び
09. Frontiers
10. Rubicon 永遠なるルビコン
(bonus)
11. Only The Young
12. Ask The Lonely
13. Liberty
14. Only Solutions

Personnel:
Steve Perry : vocal
Neal Schon : guitar, chorus
Jonathan Cain : keyborads, guitar, chorus
Ross Valory : bass, chorus
Steve Smith : drums, percussion
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Randy Jackson : bass