ジャケットには窓がいくつか開いていて、中に仕込まれた円盤をまわすと、窓から覗く絵が変わります。懐かしい変形ジャケットが、紙ジャケで見事に再現されていて、心温まります。ほんとに回るようになっています。とても愛のある再現ぶりです。

 CDの時代になると変形ジャケットという言葉はとんと聞かなくなりました。CDは何と言っても小さいですから、豪華写真集やお菓子とセットにすることも容易です。他のメディアと組むことがほぼ不可能なサイズのLPとは違って、CDを包む素材に凝るという必要もないわけです。

 レッド・ツェッペリンはデビューして1年少しで大スターになりましたから、三作目にしてこんなに凝ったジャケット制作が許されました。余裕を感じます。アルバム制作も前作とは異なり、ツアーから離れてウェールズの田舎に引っ込み、落ち着いた環境で行われました。

 しかし、この作品は物議を醸しました。ハードでヘビーなサウンドで世界を唸らせたツェッペリンなのに、アコースティックな楽曲ばかりが封じ込められていたからです。世の中のツェッペリン・フリークは当惑し、失望を覚えた人も多かったようです。

 私がリアル・タイムでツェッペリンに接するのはもう少し後のことですから、その物議は直接には知りません。しかし、ファーストやセカンドは持っている先輩や友人が多かったのに、このサードだけは誰も持っていませんでした。酷評の余波を感じることができました。

 アルバムはインテリ・プロレスラーだった故ブルーザー・ブロディのテーマ「移民の歌」で幕を開けます。これはロバート・プラントの叫び声とジミー・ペイジのギター・リフを中心としたキャッチーなハード・ロックです。短い曲ですが、彼らの代表曲の一つです。

 直後にアコースティックな曲を挟みますが、A面はエレクトリックです。中でも「貴方を愛しつづけて」は、前作、前々作にもあったようなスローなブルースです。ライブの定番となるブルース全開、ギター弾きまくりの名曲で、実にツェッペリンらしい楽曲です。

 B面はほとんどアコースティックな楽曲です。有名な「タンジェリン」や、曲作りのために彼らが引っ込んだ地名をタイトルにした「スノウドニアの小屋」などが並びます。この流れがハードロック野郎やヘビメタ小僧を呆然とさせたわけです。

 ハード・ロックにさほど思い入れのない私にしてみれば、さほど違和感があるわけではありません。前作にも前々作にもアコースティックな楽曲はありましたし、エレクトリック・セットと曲調が極端に変わるわけではありません。むしろより立体的なサウンドになりました。

 ブルースに対する彼らの批評的なアプローチが、トラッドやフォークに対しても同様に行われているわけで、結果、出てきているのはツェッペリン独自の新しい音楽です。フォークの伝統に根差すのではなく、出発点として接している。そうでなければ、こんなドラムは入りません。

 多くの方が二枚目と四枚目を繋ぐアルバムとしての評価をされていますが、前後に寄りかからなくても、十分一人で立っていける、聴きごたえのあるアルバムです。ツェッペリンを紹介する際に「移民の歌」が流れることも多いですしね。私は結構好きですがどうでしょう。

Led Zeppelin III / Led Zeppelin (1970 Atlantic)

*2014年4月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Immigrant Song 移民の歌
02. Friends
03. Celebration Day 祭典の日
04. Since I've Been Loving You 貴方を愛しつづけて
05. Out On The Tiles
06. Gallows Pole
07. Tangerine
08. That's The Way
09. Bron-Y-Aur Stomp スノウドニアの小屋
10. Hats Off To (Roy) Harper

Personnel:
John Bonham : drums, chorus
Robert Plant : vocal, harmonica
Jimmy Page : guitar, theremin, chorus
John Paul Jones : bass, organ, chorus