2013年に亡くなったルー・リードは、高校時代から最晩年に至るまでの膨大な音源を含む資料を残しています。まさにお宝の山です。そうした資料はしっかりと管理されていて、現在も整理が続いており、アーカイヴ・シリーズとして発表されていく模様です。

 「ワーズ&ミュージック1965年5月」はアーカイヴ・シリーズの第一弾として2022年のリードの誕生日に発表されました。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとしてレコード・デビューする前の音源をコンパイルしたものですからアーカイヴの名に相応しい貴重品です。

 この未発表曲集の中心となっているのは、リードが自らにあてて郵送したテープに収められた音源です。彼の事務所に50年近くも未開封のまま残されていたそうです。開封するかどうか迷ったようですが、アーカイヴの所有先が決まったことを機に開封されました。

 自分宛てにテープを送って未開封のままにしておくというのは、「貧者の著作権」と言われる風習だそうです。郵便には消印が押されますから、後々必要となった際に、いつ自分で作った曲なのかということを証明できる。安価な著作権保護手段です。

 消印だけだと今一つ証明能力に欠けそうですが、リードの場合はしっかりと公証人のサインを取り付けており、法的には完璧だといえます。しかも未開封ですからさらに万全。開けなければいけない機会が訪れなかったのは大変結構なことでした。

 収録された曲は11曲、各楽曲はタイトルと♪ワーズ&ミュージック・バイ・ルー・リード♪との宣言に引き続いて演奏されていきます。演奏しているのはルー・リードとジョン・ケールの二人です。リードのボーカル、アコギ、ハーモニカ、そこにケールのボーカルを添える布陣です。

 消印の日付は1965年5月11日で、この日はリードとケールのスタジオ・セッションが行われています。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの結成につながる重要なイベントです。テープはこのセッションのに先立って投函されたものと思われます。用心深いルー・リードです。

 楽曲の中で後々有名になるのはバージョン違いで二回収録されている「僕は待ち人」、「ヘロイン」、「ペイル・ブルー・アイズ」の三曲と意外と少ないです。「富豪の息子」もありますが、これは名作「ベルリン」収録の同名曲とはまるで異なる楽曲です。

 音質はお世辞にも素晴らしいとは言い難いですけれども、アコギの弾き語りで歌われる楽曲の数々はケールのふりかけも効いて、ヴェルヴェッツにごく自然につながるやるせない迫力に満ち満ちています。珍しさを愛でる以上に作品として素敵です。

 本作品にカップリングされているのは1958年から64年にかけて録音された音源の数々です。1958年といえばリードはまだ16歳、高校生です。ドゥー・ワップ・バンドを結成していたリードがバンドメイトと一緒に録音した「ジー・ウィズ」が当時の音源です。

 これらの音源は全部で6曲あり、そのうちの2曲はボブ・ディランのカバーである点も興味深いです。リードの達者なギター・プレイも楽しめます。ただし、こちらはやはりボーナス・トラックと捉えた方がよさそうです。どう考えても主役は未開封テープです。

Words & Music May 1965 / Lou Reed (2022 Light in the Attic)