能町みね子が好きらしいという情報しかありませんでしたけれども、レコード屋の店頭でみかけたので、おそらくは間違いあるまいと思って購入したカセット・テープ作品です。このところカセット・テープが音楽を届けるメディアとして再び陽の目をみるようになってきました。

 この作品は「音に、音楽に選ばれた男」と呼ばれ、カルト的な評価を得ているアーティスト、戸張大輔の作品「ギター」です。もはや20年以上も前の作品ですけれども、2022年にカセットで復刻、2019年にはLPにもなっています。根強い人気です。

 オリジナルはカーネーションの直枝政広らが主宰しているバンブルビー・レコードから1999年に発表されています。同レーベルからはちょうど10年後の2009年にセカンド・アルバム、「ドラム」が発表されています。しっかりと活動を続けている戸張です。

 レーベルのサイトによれば、戸張は「90年代半ば、関西ローファイ/スカム・シーンの中、大阪フォーエバーレコード、東京ロス・アプソンだけで売られたカセット作『ファンタジー』がREMIX誌95年ベストアルバムに選ばれる」などして評判となりました。

 そこでバンブルビーより、既発カセット音源と99年新録を交えて、本作品「ギター」が発表されました。「ギター」は、「その一切の形容を拒否したかのドリーミィーな音楽」が口コミのみで広まり、結果として、「異例の10年に及ぶロング・ヒット」となっています。

 話題としては、「来日したキャロライナ・レインボーのメンバーが持ち帰った彼の音源を無断で全世界発売した」とか、「昭和歌謡バンド、エゴラッピンのボーカルの人がカバー」したことなどが挙げられませう。後者は中納良恵のことで、本作品の「無題4」をカバーしています。

 この作品は戸張が一人ですべての歌と演奏を行っているようです。全部で22曲収録されていますけれども、いずれも曲にタイトルは付けられておらず、曲に言及するときには「無題○」と呼びならわすのが慣例になっているようです。それで中納のカバーは「無題4」です。

 私の手元にあるのは、シカゴのアイ・ヴァイブ・レコードから再発されたテープです。2010年に設立されたこのレーベルはカセットを中心にサイケからアヴァンギャルドなどを発表しています。ここのところ、日本の実験的な音楽にフォーカスを当てているとのことです。

 オリジナルはCDだったと聞いてショックを受けているわけですが、カセットも味わいがあります。何といっても本作品の音質がテープ向きです。まるで1970年代にラジカセを使って、宅録をしたかのようなローファイぶりです。久しぶりのラジカセ・サウンドが嬉しい。

 しかし、そんなローファイで奏でられるアコースティックなサウンドは確かに「一切の形容を拒否」しています。ギターの弾き語りといえば弾き語りですが、さまざまな楽器も使われており、それも22曲それぞれがかなり異なったテイストです。

 70年代フォーク風だったり、民族音楽的だったり、不協和音のアヴァンギャルドだったり、その表情はさまざまですけれども、とにかく腹に染みます。ライヴもほとんどやらない孤高の音楽家による恐るべき楽曲群です。能町みね子はやはり正しかったと思いました。

Guitar / Tobari Daisuke (1999 Bumblebee)



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Personnel:
戸張大輔