BiSHがとうとう解散してしまいました。紅白歌合戦への出場が決まると同時に解散を発表するという、誰もが妄想する人気絶頂での解散劇をやってみせた姿勢は楽器を持たないパンク・バンドらしいアイロニーが利いていました。ちょっと間延びしてしまいましたが。

 この作品はBiSHの解散の日に発表されたベスト・アルバムです。最近の例にもれず、この作品も4形態での発売です。私が買ったのは2枚組のCD盤です。コンプリート盤を除けばCDは他の形態と同じで、映像ディスクが付くか付かないかの違いです。

 BiSHは解散予告と同時に毎月シングル曲を発売することも発表しており、実際に12曲もの新曲が出されています。私としてはてっきりその12曲を網羅するアルバムが発表されるものだとばかり思っていたので、ここでベスト盤とは意外ではありました。

 今回の作品は2枚組となっており、目玉となっているのは代表曲6曲の再録音です。2023年現在のBiSHによる歌入れが行われており、これだけでも本作品を買う価値があるというものです。格段に情感豊かな6人の歌が心に染みわたります。

 再録されたのは、「オーケストラ」、「プロミスザスター」、「星が瞬く夜に」の誰が選んでもそうなるであろうトリオ、デビュー曲「スパーク」、「サラバかな」、リンリン作詞の「beautifulさ」と少し意外な3曲で計6曲です。再録だけに少し前の曲が多いです。

 これら以外に15曲が選曲されています。清掃員と呼ばれるファンの人気投票上位の楽曲が選ばれたということで、2020年のベスト盤とは半分くらいしか重なっていません。さらに解散発表後のシングル12曲は一切含まれていません。返ってすがすがしいです。

 収録曲21曲のうち、インディーズ時代のアルバム曲が6曲、無料配信されたシングル曲「プリミティブ」を加えれば7曲、実に3分の1を占めます。メジャー・デビュー後の楽曲も初期の三作品が多くを占めており、最新アルバムの曲は含まれていません。

 メジャーなシングル曲ばかりかといえばそうでもなく、中には、2017年のライブ単独映像作品の初回生産限定盤にのみ添付されていた2曲入りCDシングル「ヒーローワナビー」と「ムーン・チルドレン」という清掃員のみぞ知る珍しい楽曲も入っています。

 結局、2020年以降の楽曲はわずかに「co」一曲のみです。BiSHは意欲的な楽曲をどんどん発表していますけれども、さまざまな伝説に彩られているために、なかなか新たな試みがファンの皆様に受け入れられがたい様子が見て取れます。みんな伝説を確認したい。

 解散までのカウントダウンでテレビ出演も増えましたけれども、ほぼいつも「プロミスザスター」ばかりを歌っていました。そこのところが残念です。BiSHは自らが作り上げた神話に絡めとられてしまったかのようでした。その意味では大きなバンドであったともいえます。

 BiSHのメンバーたちは大きく成長しており、もはやBiSHの器が窮屈になってしまっていたのでしょう。これから始まる彼女たちの第二章に期待したいと思います。ペドロも新たな曲を発表しましたし、セントチヒロ・チッチもアルバムを予定しています。楽しみです。

BiSH The Best / BiSH (2023 Avex Trax)



Tracks:
(disc one)
01. オーケストラ ’23
02. プロミスザスター ’23
03. スパーク ’23
04. BiSH~星が瞬く夜に~ ’23
05. サラバかな ’23
06. beautifulさ ’23
07. ヒーローワナビー
08. Nothing
09. co
10. My Distinction
(disc two)
01. My Landscape
02. Moon Children
03. Primitive
04. Stereo Future
05. For Him
06. Story Brighter
07. Hide The Blue
08. Can You??
09. 二人なら
10. BUDOKANもしくはTAMANEGI
11. Paint It Black

Personnel:
アイナ・ジ・エンド
セントチヒロ・チッチ
モモコグミカンパニー
ハシヤスメ・アツコ
リンリン
アユニ・D
ex. ユカコラブデラックス、ハグ・ミィ