「インフィニティ」、「エヴォリューション」に続く、新生ジャーニーの第三作目「ディパーチャー」です。この時期のジャーニーをさなぎ期と呼ぶ人もいます。最初の三作が幼虫、この三作がさなぎ、そして次の「エスケイプ」で蝶が見事に羽ばたくわけです。なるほど。

 しかし、さなぎというにはビッグなアルバムです。「ディパーチャー」はジャーニーにとって初めてのトップ10アルバムになり、全米8位を記録したのでした。本作品も結果的には300万枚を売る大ヒットとなっています。これで「さなぎ」とは...。

 日本での人気も復活し、本作品をひっさげた二回目の来日公演は初来日公演とは比べようのない盛り上がりを見せたのでした。なお、初来日時には飛ぶ鳥を落とす勢いのボストンと重なってしまったという恨みがあったことを念のために申し添えておきます。

 このアルバムではプロデューサーがロイ・トーマス・ベイカーから、ベイカーと働いていたエンジニアのジェフ・ワークマンとケヴィン・エルソンに交代しました。バンドはベイカーのプロダクションに不満があったようです。作りこまないサウンドを希求したのでしょう。

 なお、エルソンはレイナード・スキナードのアルバムをプロデュースしたことで知られており、主力メンバーを失ったあの運命の飛行機事故を生き延びた人です。クイーンよりもレイナード・スキナードを選んだジャーニーの心意気を感じます。

 本作品はスタジオ・ライヴ的に制作されています。とはいえ、初期のようにジャム演奏をしながら曲が出来ていったわけではなく、曲は事前にしっかり用意されており、勢いをレコードに残すためのスタジオ・ライヴです。ライヴ・バンドとしての矜持でしょう。

 タイトルの「ディパーチャー」には過去のジャーニー・サウンドからの訣別が込められているとのことです。まさに新しい旅立ちです。しかし、さなぎ期もこれが最後、前二作の集大成でもあります。がらりと本作品で作風が変ったわけではありません。

 さなぎ期を通じて示されていた新しいサウンドがここに完成した手ごたえがあったということなのでしょう。象徴的な楽曲はシングル・ヒットした「お気に召すまま」であり、「ウォークス・ライク・ア・レディ」です。ヒット曲の作り方を心得てきた感じがたまりません。

 「お気に召すまま」はジャーニーの代表曲として知られるようになります。コーラス・ワークといい、はつらつとしたサウンドといい、後のジャーニーのヒット曲群に混じってもまるで違和感がありません。さなぎの中から蝶々が透けて見えてきました。

 一方の「ウォークス・ライク・ア・レディ」はペリー単独作で「ラヴィン・タッチン・スクウィージン」に続くブラック・ミュージック寄りの楽曲です。ただし、ペリーのボーカルの独壇場かと思いきや、ニール・ショーンのギターがとてもかっこいいです。嬉々としたショーンなのでした。

 本作品はレギュラー・アルバムとしては、オリジナル・メンバーのグレッグ・ローリーが参加した最後のアルバムになりました。本作品での「サムデイ・スーン」がローリーの最後のリード・ボーカル曲です。「ディパーチャー」はそのことを予見したタイトルでもありました。

Departure / Journey (1980 Columbia)



Tracks:
01. Any Way You Want It お気に召すまま
02. Walks Like A Lady
03. Someday Soon いつの日か
04. People And Places 感じてほしい
05. Precious Time 至上の愛
06. Where Were You 消えたあの娘
07. I'm Cryin' 泣きぬれて
08. Line Of Fire
09. Departure
10. Good Morning Girl
11. Stay Awhile 僕のそばに
12. Homemade Love

Personnel:
Steve Perry : vocal
Neal Schon : guitar, vocal
Gregg Rolie : keyboards, harmonica, vocal
Ross Valory : bass, bass pedals, chorus
Steve Smith : drums, percussion