ジェームス・ブラウンが「ゴッドファーザー・オブ・ソウル」ならば、サム・クックは「ミスター・ソウル」である、と高らかに宣言したアルバム、その名も「ミスター・ソウル」です。RCAの前作「ツイストで踊りあかそう」からベスト盤をはさんでの登場です。

 生成AIによれば、ソウル・ミュージックとは「アメリカのアフリカ系アメリカ人のコミュニティを起源として誕生した音楽の一つです。ゴスペルやR&B、ジャズなどの要素が含まれており、コード進行、ベースを強調したリズム、コールアンドレスポンスの使用などが特徴です」。

 このような一般的な意味を採用したとしても、サム・クックが「ミスター・ソウル」と呼ばれることに異論などあろうはずはありません。しかし、クックが「ミスター・ソウル」を高らかに宣言する作品がこれなのかということに関しては、多くの方が手放しで賛成はしないでしょう。

 プロデューサーのヒューゴ&ルイージは、本作品について、キャリアの半ばで、このままポップ路線を続けて無難に過ごすのか、自身に正直になって「ソウル」と呼べる音楽を歌い始めるか選択を迫られ、後者を選択した結果なのだと説明しています。

 ここでいう「ソウル」とは、形式にとらわれず演奏者が感じるままに真実を歌うことです。それは聴けば分かる。心の赴くままに伸ばしたければ伸ばし、ビートを感じればビートを入れ、こぶしをきかせたければきかせる。そんな歌なのだということです。

 心意気はまことにもって素晴らしい。サム・クックがこうした意味で「ミスター・ソウル」というならばまさにその通りです。クックの自由自在な歌はとにかく素晴らしい。草創期からソウル・ミュージックを作り上げてきた偉人サム・クックですから、何の異論がありましょうか。

 しかし、本作品はアルバム発表の少し前にシングル・ヒットした自作の傑作バラード「ナッシング・キャン・チェンジ・ジス・ラヴ」に、ジャズやポピュラーのスタンダード曲を組み合わせて作られたアルバムです。要するに従来のポップ路線の延長にあります。

 しかも前作がレネ・ホールを迎えてブラック・ミュージック寄りのサウンドだったのに対し、本作品ではホレス・オットをアレンジャーに起用してオーケストレーションをばりばりきかせています。オットはR&B畑の人なので、ねっとりとアレンジはしているのですがポップ寄りです。

 とはいえ、サム・クックはサム・クックです。ミスター・ソウルの名にふさわしく、「クライ・ミー・ア・リヴァー」などというジュリー・ロンドンで大ヒットしたスタンダード曲などを素晴らしくソウルフルに歌い上げています。ヒューゴ&ルイージの思惑どおりなのかもしれません。

 そう思うと、ソウル・ミュージックを形式としてとらえているのは実は私なのかなと反省することしきりです。何を歌ってもミスター・ソウルが歌えばそれはソウルなんでした。ポップもソウルも対立するわけではないということでしょう。聴けば分かる、それがソウルでした。

 なお、本作品からはリトル・リチャードのカバーである「センド・ミー・サム・ラヴィン」もシングル・ヒットしています。また、ブライアン・フェリーのカバーで知られる「ディーズ・フーリッシュ・シングス」が含まれていることも嬉しいポイントです。何を歌っても本当にうまいですよね。

Mr. Soul / Sam Cooke (1963 RCA)



Tracks:
01. I Wish You Love
02. Willow Weep For Me
03. Chains Of Love
04. Smoke Rings
05. All The Way
06. Send Me Some Lovin'
07. Cry Me A River
08. Driftin' Blues
09. For Sentimental Reasons
10. Nothing Can Change This Love
11. Little Girl
12. These Foolish Things

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Bill Pitman, Clifton White, Tommy Tedesco : guitar
Ray Pohiman, Clifford Hills, Red Callender : bass
Earl Paalmer, Sharky Hall : drums
Ron Rich : percussion
Edward Beal, Ray Johnson, Ernie Freeman, Al Pellegrini : piano
Nathan Griffin : organ
Bill Green, Plas Johnson, William Green : sax
John Ewing : trombone
William Hinshaw : French horn
Israel Baker, Robert Barene, Leonard Malarsky, Myron Sandler, Ralph Schaeffer, Sid Sharp, Arnold Belnick, Autrey McKissack, Jerome Reisler : violin
Jesse Ehrlich, Irving Lipschultz, George Neikrug, Emmet Sargeant : cello
Harry Hyams, Alexander Neiman : viola