ロンドン・オリンピックの熱狂は、スパイス・ガールズを再結成させましたが、オアシスを甦らせるまでには至りませんでした。リアム・ギャラガーは口パクながら歌っていましたが、兄ノエル・ギャラガーは影も形も見えませんでした。まあ、オアシスらしいです。

 オアシスのデビュー・アルバムです。1994年。英国の音楽を変える超大型新人のデビューだと騒がれたものです。英国からは毎年超大型新人がデビューするので、眉に唾をつけて話を聞いていたのですが、彼らは本当にビッグなアーティストになりました。

 オアシスは、正統派ブリティッシュ・ロック界のど真ん中を歩むバンドで、ビートルズの後継者としてその系譜に連なります。労働者階級のヒーローであり、不遜さと傲慢さも芸の内という、誰もが思い浮かべるまさに典型的なスタイルのロック・バンドです。

 リアムとノエルのギャラガー兄弟を中心にしたこのバンド、見事なものです。このデビュー・アルバムを初めて聴いた時には、思わず唸りました。ど真ん中の剛速球。あまりのことに球筋に見とれて呆然と見逃してしまいました。大したものです。

 この作品からは、4曲がシングル・カットされて、いずれもヒット。アルバムは英国では初登場1位に輝いています。5曲目のシングル・カットはさすがに思いとどまりましたが、私はその5曲目となる予定だった「スライド・アウェイ」がオアシスの曲の中で一番好きです。

 全曲をノエルが作り、リアムが歌う。分厚いギターの音の壁の前で、つい一緒に歌ってしまうキャッチーなメロディーを荒々しい愛すべき声で歌い上げる王道ロック。全曲シングル・カットできそうな名曲を、ちょっとリズムが平凡ながら若さと勢いに溢れた演奏で聴かせます

 しかし、録音はなかなかうまく行かなかったようです。思った音が出ず、セッションをやり直したあげく、ノエルはギターを重ねに重ねますが満足できない。ところが、それをエンジニアのオーウェン・モリスがミックスしたら、あら不思議、見事な作品に仕上がったということです。

 しかも、ミックスの過程で、ギターをかなり剥ぎ取ったと聞いてまたびっくり。これでも十分に分厚いと思うんですが、ミックス前はどんなだったんでしょうか。ネイキッドの逆ですが、それはそれで聴いてみたいものです。編集の大切さがよく分かりそうです。

 楽曲は「スーパーソニック」、「シェイカーメイカー」、「リヴ・フォーエヴァー」、「シガレット&アルコール」の順にシングル・カットされています。最後の曲、「マリード・ウィズ・チルドレン」のみアコースティックで、その他はエレキ・ギターをかき鳴らすオアシス節です。

 私の大好きな「スライド・アウェイ」だけはプロデューサーが違っていて、そのせいかリアムの歌声がちょっと大人しいです。しかし、そんなことは全く気にならない名曲です。サビの部分などは聴いていると涙が出てきますね。一緒に歌うと気持ちがいいです。

 オアシスは、ブリット・ポップのブームを世界中で巻き起こし、袋小路に迷い込んでいた英国ロックの新たな地平を開きました。もう死んでしまったと思われていた、メロディー重視の正統派ロックに、まだまだこんな可能性があったのかと目から鱗が落ちる出来事でした。

Definitely Maybe / Oasis (1994 Creation)

*2012年8月14日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Rock 'n' Roll Star
02. Shakermaker
03. Live Forever
04. Up In The Sky
05. Columbia
06. Supersonic
07. Bring It On Down
08. Cigarettes & Alcohol
09. Digsy's Diner
10. Slide Away
1. Married With Children

Personnel:
Liam Gallagher : vocal
Noel Gallagher : guitar, chorus
Paul Arthurs : guitar
Paul McGuigan : bass
Tony McCarroll : drums
***
Anthony Griffiths : chorus