サム・クックはメジャー・レーベルRCAに移籍して、ヒューゴ&ルイージのプロデュースによるアルバムをこれまで4枚発表してきました。いずれも何らかのコンセプトに基づく意欲的なアルバムでしたが、残念なことにどれもチャート入りすることはかないませんでした。

 しかし、クックは弱小レーベルであるキーンから発表したデビュー・アルバムをチャート入りさせているのです。しかも16位、クックの生涯にわたる代表曲「ユー・センド・ミー」を含むセルフ・タイトルのアルバムです。これではヒューゴ&ルイージが策に溺れたとしかいえません。

 「ツイストで踊りあかそう」は、がらりと趣向を変えて、クックの自作による同名の楽曲が大ヒットしたことから、とにかく急いで同じタイプの曲を集めて仕立て上げたアルバムです。ジャケットにヒューゴ&ルイージがそう書いているのですから間違いありません。

 本作品が発表された1962年はツイストと呼ばれるダンスのブームが最高潮に達していた時期です。本作品にも収録されているチャビー・チェッカーによる「ザ・ツイスト」が1960年に全米ヒット・チャートで一位を獲得すると、またたくまに世界が熱中したのでした。

 そうして、米国を中心に雨後の筍のようにツイストを踊るための曲が誕生しました。ヒューゴ&ルイージによれば8億5千万枚もツイスト曲が売れたのだということです。クックもツイストを踊る人々の姿にインスピレーションを得て、この曲を書きました。

 ツイスト・ブームに乗って、クックの「ツイストで踊りあかそう」は見事に全米9位、R&Bチャートでは1位を獲得する大ヒットとなりました。この曲は単にヒットしたばかりではなく、後にロッド・スチュワートなどもカバーするスタンダードとなった名曲です。

 本作品には他にもクックのオリジナルが6曲含まれており、そのうち、3曲がシングル・カットされてチャート入りしています。カバー曲もツイスト関連の曲が中心となっており、アルバム全体がツイストしています。その分、収録時間は短く30分に満たないところが玉に瑕です。

 この作品からクックのチームはニューヨークからハリウッドに拠点を移動しました。このため、アレンジャーがサミー・ロウから、キーン時代にクックと働いていたレネ・ホールに交代しました。クックがヒット曲をとばしていた時代に戻ったわけですね。

 ホールは、ピンク・パンサーのテーマで有名なサックス奏者プラス・ジョンソン他を起用して、過去の栄光を取り戻そうと頑張りました。それに今回はツイストです。白人向けの「本物の曲」から、若者も熱狂するロックンロールへの転換です。

 クックの素の姿に近づいたことで、アルバム全体が生き生きとしています。これまでも歌のうまさで数々の楽曲をねじ伏せてきたクックですが、ここでは実に気持ちよさそうに踊りながら歌っています。クックはもちろんリズム感も抜群なのでした。

 アルバムは全米74位と控えめながらチャート入りすることに成功しました。まだまだその才能を完全に開放したわけではないことは後に知ることになるわけですが、ともあれクックが黒人音楽の方面に戻って来たことは素直に喜んでよいと思います。

Twistin' The Night Away / Sam Cooke (1962 RCA)



Tracks:
01. Twistin' The Night Away ツイストで踊りあかそう
02. Sugar Dumpling
03. Twistin' In The Kitchen With Dinah
04. Somebody's Gonna Miss Me
05. A Whole Lotta Woman
06. The Twist
07. Twistin' In The Old Town Tonight
08. Movin' And A'Groovin'
09. Camptown Twist
10. Somebody Have Mercy
11. Soothe Me
12. That's It - ) Quit - I'm Movin' On

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Al Chernet, Charles Macey, Clifton White, Tommy Tedesco, Bobby Gibbons, René Hall : guitar
Lloyd Trotman, Red Callender, Jimmy Bond, Ray Pohlman : bass
Panama Francis, Earl Palme, Sharky Hallr : drums
Bobby Donaldson : percussion
Ernest Hayes, Eddie Beal, Marty Harris : piano
Jackie Kelso, Plas Johnson : tenor sax
Jewell Grant : baritone sax
Stuart Williamson, John Anderson : trumpet
Larry Altpeter, Albert Godlis, Frank Saracco, John Ewing : trombone
Hinda Barnett, Frederick Buldrini, Morris Lefkowitz, Archie Levin, Ben Miller, George Ockner, Sylvan Ockner, Franklin Siegfried Harry Urbont : violin