トッド・ラングレンの5作目のアルバム「トッド」はまたまた二枚組になりました。しかし、前作よりもわずかに10分ほど長いだけで、二枚組としてはいかにも短い。相変わらずのわがままぶりです。オイル・ショックでレコード素材が不足していたにもかかわらず立派な態度です。

 この作品にはポスターが付属していて、そこには前作に封入されていたカードを返送した人々の名前が記載されていました。出さなくて後悔した人も多かったことと思います。私はリアルタイムでは前作を買わなかったので二倍後悔しました。

 本作品ではシンセサイザーが大活躍しています。「未来から来たトッド」という邦題はそこからの連想でしょう。まだ普及し始めた頃ですからシンセは珍重されていました。いかにもシンセらしいしゅわしゅわしたサウンドを嬉しそうに使っているのが印象的です。

 トッドによれば、この作品も前作同様にドラッグによる精神世界のトリップを表現しているそうです。そのためのツールとしてシンセサイザーが活用されているのでしょう。「スパーク・オブ・ライフ」や「イン・アンド・アウト・ザ・チャクラス・ウィー・ゴー」などのインスト曲が典型です。

 この頃、ドイツでもクラウス・シュルツェなどのクラウトロック勢がシンセを使って精神世界の探求を始めていましたけれども、このトッドとの違いは何なんでしょう。トッドもまたルドルフ・シュタイナーやクリシュナムルティなどの神秘思想家に入れ込んでいたというのですが。

 そうなんです。トッドは複雑な構造の曲を奏でようとも、やはりポップが勝っています。持ち味である美メロのボーカル曲もちゃんと入っていますし、どんな曲もどこか軽くて明るい。シリアスな取り上げられ方を拒否する明るさが潔いように思います。

 本作品もワンマン録音と他のミュージシャンとの共演作がほどよくブレンドされています。この頃、トッドは自身のバンド、ユートピアの結成を図っており、実際に本作品に起用したメンバーとライヴまで行っています。試行錯誤の最中のアルバムであることが分かります。

 本作品の最後の曲「1984年の子供たち」ではニューヨークとサンフランシスコで大勢の観客による合唱が使われています。先のユートピアによるライヴで録られており、一緒にライヴを行ったブレッカー兄弟もこのテイクには参加しています。壮大なプロジェクトですね。

 このようにさまざまな試みがなされていて、前作よりもさらにバラエティーに富んでいます。ボードヴィル調からヘビィ・メタル、複雑な構成のプログレなど、やり過ぎと言えるほどにさまざまな要素が詰め込まれています。「キング・コング・レゲエ」なんていう曲まであります。

 しかし、多くの人にとってこの作品はやはり「夢は果てしなく」が入っているアルバムとして記憶されているのではないでしょうか。弾き語り調の美しいバラードで、トッドの全作品の中でも1、2を争う名曲です。もう少し聴きたいと思わせる短さも奥ゆかしいです。

 頭の中でなっている音楽をそのまま形にしようとする試みはアルバムとしてのまとまりなど考えていられないのでしょう。脳内はさまざまな情報が渦巻いているわけですから当然です。やり過ぎのように見えますけれども、とても誠実な態度だと思います。

Todd / Todd Rundgren (1974 Bearsville)

*2013年8月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. How About A Little Fanfare? まずはファンファーレで勝負?
02. I Think You Know 君は知っている
03. The Spark Of Life
04. An Elpee's Worth Of Toons 一枚のLPに賭ける
05. A Dream Goes On Forever 夢は果てしなく
06. Lord Chancellor's Nightmare Song 大法官の悪夢の歌
07. Drunken Blue Rooster ちどり足の青い雄鶏
08. The Last Ride 惜別のドライヴ
09. Everybody's Going To Heaven / King Kong Reggae 天国は待っている/キング・コング・レゲエ
10. Number 1 Lowest Common Denominator 最小公分母
11. Useless Begging むだな哀願
12. Sidewalk Café 歩道のカフェ
13. Izzat Love? それが愛なのか?
14. Heavy Metal Kids
15. In And Out The Chakras We Go (Formerly : Shaft Goes To Outer Space)
16. Don't You Ever Learn? いつになったらわかるの?
17. Sons Of 1984 1984年の子供たち

Personnel:
Todd Rundgren : vocal, other instruments
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Buffalo Bill Gelber, John Miller, John Seigler : bass
Wells Kelly, Kevin Ellman : drums
Moogy Klingman : piano, organ
Ralph Schuckett : organ, clavinette
Peter Ponzel : soprano sax
Randy Brecker : trumpet
Mike Brecker : sax
Barry Rogers : trombone
First United Church Of The Cosmic Sorgasbord : chorus