ジャケットのただならぬ迫力に圧倒されます。ファッション誌ボーグなどで活躍した写真家デヴィッド・ベイリーの撮ったサンディー・デニーの見事なポートレートです。精霊か妖精か、何か人ならぬものを感じます。髪の毛の表現がとにかく素晴らしい。

 本作品はフェアポート・コンヴェンションで傑作を残したサンディー・デニーによるソロ・アルバム第二弾、その名も「サンディー」です。この時、まだ25歳のデニーはメロディー・メイカー誌の人気投票で女性歌手部門で2年連続の一位を獲得するなど人気絶頂でした。

 デニーはいわゆるフォーク歌手です。その彼女の名前をロック・ファンに一躍知らしめたのは、ソロ・デビューとなる前作発表直後に名作「レッド・ツェッペリンIV」収録の「限りなき戦い」でボーカルを披露したことでした。彼女の歌声はアルバムの一つのハイライトでした。

 そうした人気の渦中にあったにしては、本作品のチャート・アクションはまるで冴えませんでした。しかし、サンディー・デニーの名前は夭逝した後も多くの人の記憶に残っているばかりか、今に至るも新しいファンを獲得し続けています。本作品もそこに大いに貢献しています。

 アルバムのプロデュースは後にデニーと結婚することになるトレヴァー・ルーカスが担当しています。デニーはフェアポート・コンヴェンションを脱退した後、ルーカスとフォザリンゲイなるバンドを組んでおり、そのメンバーだったパット・ドナルドソンも本作品に参加しています。

 フォザリンゲイは短命に終わって、デニーのソロ・キャリアが始まるわけですが、フェアポート・コンヴェンションとの関係は良好だったようで、本作品には中心メンバーのリチャード・トンプソンが全面的に参加して大きな役割を果たしています。

 デニーは、「私の曲は少しばかり風変わりで奇妙に聴こえるかもしれない。それは自分でもわかっている。私は人々を歌にしてきた。そしてシンプルな作品を書くように心がけてきた。実際、最近は以前よりもずっと率直な表現ができるようになったと思う」と話しています。

 デニーの作る曲は一見すると極めてまっとうなフォーク・ソングですけれども、よく聴くと確かに少し風変りです。底が知れない深みをたたえた曲ばかりともいえます。それはサウンド・プロダクションの妙でもあると思われます。これもとにかく深いです。

 「フォー・ノーバディ・トゥ・ヒア」ではニュー・オーリンズのアラン・トゥーサンによるブラス・アレンジメントを聴くことができますし、多くの曲ではブリティッシュ・フォークらしいバイオリンやマンドリンを駆使したサウンドが響いてきます。シンプルながら深みのある演奏ばかりです。

 異色なのは「クワイエット・ジョイズ・オブ・ブラザーフッド」で、基本的にデニーのアカペラ多重録音です。彼女はここでブルガリアン・ボイスを意識していると語っています。ちなみに日本でブルガリアの合唱が大ヒットするのはここから15年後のことです。この歌声は凄いです。

 ピート・タウンゼントはデニーを「彼女はイギリスのフォーク・シンガーの理想そのものだった。ヴィブラートのない澄み切った穏やかな声をしていた」と評しています。異存などあろうはずはありません。デニーは夭逝してしまいましたが、この作品はまさに永遠です。

Sandy / Sandy Denny (1972 Island)



Tracks:
01. It'll Take A Long Time
02. Sweet Rosemary
03. For Nobody To Hear
04. Tomorrow Is A Long Time
05. Quiet Joys Of Brotherhood
06. Listen, Listen
07. The Lady
08. Bushes And Briars
09. It Suits Me Well
10. The Music Weaver
(bonus)
11. Here In Silence
12. Man Of Iron
13. Sweet Rosemary (demo)
14, Ecoute, Ecoute
15. It'll Take A Long Time

Personnel:
Sandy Denny : vocal, piano, guitar
***
Richard Thomppson : guitar, mandolin
Pat Donaldson : bass
Timi Donald : drums
Dave Swarbrick : violin
Pete Kleinow : pedal steel
John Bundrick : organ, piano
Linda Peters : chorus
Harry Robinson : string arrangement
Allen Toussaint : brass arrangement