音楽職人と呼ぶのがふさわしいトッド・ラングレンは、アイドルっぽいロック・バンドだったナッズを脱退したのち、音楽プロデューサーを目指してニューヨークに移り住みます。そこで出会ったのがボブ・ディランのマネージャーだったアルバート・グロスマンです。

 この頃、グロスマンは大手テープ機器メーカーのアンペックス社とアンペックス・レコードを立ち上げ、さらにベアズヴィル・スタジオを建設したばかりでした。トッドの才能を見込んだグロスマンは彼にハウス・エンジニア/プロデューサーの職をオファーします。

 こうしてエンジニアとして働き始めたトッドはジェシ・ウィンチェスターやザ・バンドなどのアルバムにかかわるなど順調な活躍をみせていきます。並行して、トッドはアンペックスから自身のアルバムを発表する契約を交わし、ここにデビュー・アルバム「ラント」が完成します。

 ただし、明らかにソロ・アルバムなのですが、当初はハントとトニーのセイルズ兄弟とのトリオだと認識されていたそうです。ラントをバンド名とするわけです。ただし、トッドの愛称もラントだったそうですから、どういうつもりだったのかは正直よく分かりません。

 セイルズ兄弟は本作品のロサンゼルス録音分でベースとドラムを担当しています。この兄弟は後にデヴィッド・ボウイとティン・マシーンを結成することになります。こんなところにつながりが出てくるロック相関図は面白いものです。まさかのボウイとトッドをつなぐ糸です。

 アルバムはロス録音とニューヨーク録音がほぼ半々です。NYではさまざまなミュージシャンが参加しています。トッドの声からしてザ・バンドしている「ワンス・バーンド」ではザ・バンドのリック・ダンコとレヴォン・ヘルムがリズム・セクションを担当しています。

 他にはブロードウェイの仕事で知られるジョン・ミラーや後にトッドとユートピアを結成するマーク・クリングマン、トッドがデビュー作をプロデュースしたアメリカン・ドリームの三人が参加しています。プロデューサーはやはり顔が広くなるものなのですね。

 アルバムはヘビーなブルースっぽい「ブローク・ダウン&バステッド」で幕を開けます。そこからはトッド節全開のポップ・ソング、実験的な曲からプログレ風の曲と曲調はまさにさまざまなのですが、いずれもトッドがひょろひょろ声で歌っているので統一感はしっかりあります。

 ライナーノーツで鈴木博文氏が、曲ごとに引き合いに出しているのは、ビートルズ、ザ・バンド、フランク・ザッパ、ビーチ・ボーイズ、ローラ・ニーロの名前です。曲ごとにそうした人々へのトリビュートが見いだせるというのです。さすがはミュージシャンズ・ミュージシャンです。

 シングル・ヒットしたのは「ウィー・ガッタ・ゲット・ユー・ア・ウーマン」です。全米20位はデビュー作としては大したもので、短命に終わったアンペックス・レコード最大のヒットだそうです。身もふたもない題名ですが、キャッチーなトッド節がさく裂しているいい曲です。

 リズム・セクション以外は基本的にトッドが演奏しているワン・マン・アルバムです。エンジニアも兼ねたマルチ・ミュージシャンは最強です。けして派手ではなく、むしろ地味な作品ですけれども、そこがまた受けるというひねりの効いた作品です。

Runt / Todd Rundgren (1970 Ampex)

*2013年7月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Broke Down And Busted
02. Believe In Me
03. We Gotta Get You A Woman
04. Who's That Man?
05. Once Burned
06. Devil's Bite
07. I(m In The Clique
08. There Are No Words
09. Baby Let's Swing / The Last Thing You Said / Don't Tie My Hands
10. Birthday Carol

Personnel:
Todd Rundgren : vocal, other instruments
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Tony Sales : bass, percussion
Hunt Sales : drums, percussion
Rick Danko : bass
Levon Helm : drums
John Miller : bass
Bobby Moses : drums
Mark Klingman : electric piano
Don Ferris : bass
Mickey Brook : drums
Don Lee Van Winkle : guitar