フランク・ザッパ先生は、マザーズ・オブ・インヴェンションの演奏を集めた12枚組のセットを計画していたそうです。1万枚発売するためのコストを試算したところ、25万ドルもかかることが判明し、とてもお金を出してくれる人はいないだろうとお蔵入りにしてしまいました。

 1ドル360円、大卒初任給4万円時代の25万ドルです。売れないバンドのプロジェクトとしては実現不可能でした。しかし、今なら何とかなりそうです。のちのザッパ・バンドにいたスティーヴ・ヴァイですら10枚組を出しているくらいですから。大して売れないでしょうに。

 この12枚組はすでに編集も終わっていたそうです。計画がとん挫したザッパ先生は、この中から音源を編集して本作品を作りました。先生によれば、すべての音源はライヴで80%はグループによる即興演奏なのだそうです。ソロ演奏への伴奏ではないとのこと。

 タイトルはメンズ・マガジンの記事にあったお話からとられています。水につかった半裸の男の冒険を描いたお話で、水の中には多数のいたちがいて、男にしがみついたり噛みついたりするというもの。これを「いたち野郎」と訳した放題は素晴らしいです。

 ジャケットの絵を描いているのはネオン・パークで、彼は後にリトル・フィートのジャケットを描いたりして有名になります。この頃はまだ駆け出しだった頃で、先生に声をかけられて絵を描いています。レーベルにも印刷所にも嫌われたという絵はインパクト抜群です。

 アルバムは前作同様にマザーズのライヴ音源を編集してできたものですが、前作がサンドウィッチ型の構造をした統一感のあふれる作品だったのに対し、本作品は無造作にいろんな音楽を詰め込んだような作りになっています。その放り込み加減がまた絶妙です。

 最初の「ディジャ・ゲット・エニイ・オンヤ」はローウェル・ジョージが活躍するアヴァンギャルドな演奏ですし、続く「心から」はシュガー・ケーン・ハリスのバイオリンと粘っこいボーカルが響くこてこてのブルースです。これはリトル・リチャードのカバーです。

 ボーカル曲はその他に、ロイ・エストラーダの唸り声が響く「セクシャリィ・ガスマスク序曲」、そして「ランピー・グレイヴィー」にも登場したマザーズ初期の名曲「オー・ノー」、先生自身が歌うストレートなロック・チューン「マイ・ギター」があります。

 インストゥルメンタル曲も、室内楽ロックともいえる「森のひきがえる」や「ドゥウォーフ・ネビュラ・ミュージック」、ねっとりとしたブルージーナ「いただき!」や「エリック・ドルフィー・メモリアル・バーベキュー」、ひょうひょうとした「オレンジ・カウンティ・ランバー・トラック」と名曲ぞろい。

 最後はメンバー全員が一斉に音の壁をつくる「いたち野郎」に先生の挨拶でアルバムが締められます。12枚の音源からピックアップしただけあって、とても充実した内容です。先生のギター・ソロも存分に楽しめますし、マザーズの最後の作品にふさわしいです。

 オリジナル・マザーズはこれをもって一旦解散してしまいます。ザッパ先生のワンマン・バンドではありましたが、マザーズはまぎれもなくバンドでした。後のバンドに比べるとへたくそですが、そのどんくささも含めて愛すべきバンドです。12枚組をいつまでも待っています。

Weasels Ripped My Flesh / The Mothers Of Invention (1970 Bizzare) #010

*2012年1月16日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Didja Get Any Onya?
02. Directly From My Heart To You 心から
03. Prelude To The Afternoon Of A Sexually Aroused Gas Mask セクシュアリィ・ガスマスク序曲
04. Toads Of The Short Forest 森のひきがえる
05. Get A Little いただき!
06. The Eric Dolphy Memorial Barbecue
07. Dwarf Nebula Processional March & Dwarf Nebula
08. My Guitar Wants To Kill Your Mama
09. Oh No
10. The Orange County Lumber Truck
11. Weasels Ripped My Flesh いたち野郎

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, vocal
Ian Underwood : alto sax
Bunk Gardner : tenor sax
Motorhead Sherwood : baritone sax, snorks
Buzz Gardner : trumpet, Flugelhorn
Roy Estrada : bass, vocal
Jimmy Carl Black : drums
Art Tripp : drums
Don Preston : piano, organ, electronic effects
Ray Collins : vocal
Don "Sugar Cane" Harris : electric violin, vocal
Lowell George : rhythm guitar, vocal