後にフライング・リザーズの名でヒットをとばすことになるデヴィッド・カニンガムによる初めてのソロ・アルバム「グレイ・スケール」です。制作されたのは1976年のことで、この時、カニンガムは22歳、まだメイドストーン美術大学に在学中でした。

 カニンガムはそこで伝統的な絵画ではなく、グラフィック・デザインや複製、コピーや写真などを使ったイメージ作りに励みますが、やがて、同じ方法論を音楽に適用することを思い立ち、テープ・ループの使用、ディレイなどを使った音の加工などによる音楽制作を始めました。

 カニンガムは影響を受けたアーティストとして、コーネリアス・カーデューやギャヴィン・ブライヤース、マイケル・ナイマンなどの英国実験音楽家、エヴァン・パーカーやデレク・ベイリー、スティーヴ・ベレスフォード、デヴィッド・トゥープなどの即興演奏家を挙げています。

 さらにノイ!やファウスト、カンなどのクラウトロック勢、ヘンリー・カウやキング・クリムゾンなど即興をロックに持ち込んだ人々、ダブやレゲエなどにも言及しています。1970年代半ばの英国の前衛音楽の状況を大変分かりやすく代表しているといえます。

 この作品は音楽家ではない友人たちとともにありあわせの楽器を使って作り上げたものです。使われているのはピアノやベース、バイオリン、グロッケンシュピール、シンセサイザーにパーカッション類、それにもちろんテープ・レコーダーです。

 前半は彼独自のエラー・システムによる楽曲です。演奏者はあらかじめ決められたフレーズを繰り返し演奏しますが、間違ってしまった場合にはそこからはその間違えたフレーズを繰り返していくというシステムです。当然ですが、わざと間違えることは禁止されています。

 曲は全部で6曲あって、そのうちの4曲はカニンガムのソロ、2曲は4人による合奏ですが、ソロであっても多重録音がなされていますから、合奏ではあります。合奏となると、このシステムを自身の演奏に適用するのはかなり難しそうです。間違った人と合奏するのですから。

 結果は楽器のミスタッチやリズムのずれが生じており、聴いているとかなり奇妙な感覚に襲われます。ざわざわします。いかに音楽を聴く時には脳が先を予想しながら聴いているかということがよく分かります。それが裏切られていくわけで、妙な快感がやってきます。

 後半の「エクアドル」と「ボリビア」は3種類のフレーズが与えられ、それを決められた順番で繰返し演奏するというものです。「ベネズエラ」は同工ですが各小節で演奏者が新しいイベントを即興するという違いがあります。繰返しが乱数に意味を発生させることを期待しています。

 残り二曲はテープのロング・ディレイを使用した曲で、それを背景に付加されていく短いフレーズが別の意味をもってくる、そんなことが期待されているようです。いずれも実験的なコンセプトですが、結果は大そう素朴なサウンド群でとても楽しく聴けます。

 カニンガムはパーカーのアドバイスを受けながら、自主制作レーベルを立ち上げて本作品を発表しました。ピアノと名付けられたレーベルは、後にディス・ヒートを生むことになります。その意味でもニュー・ウェイヴ当時の英国を代表する重要な面白い作品です。

Grey Scale / David Cunningham (1977 Piano)



Tracks:
01. Error System (BAGFGAB)
02. Error System (C pulse solo recording)
03. Error System (C pulse group redording)
04. Error System (E based group recording)
05. Error System (EFGA)
06. Error System (ABCD) (bonus)
07. Ecuador
08. Water Systemised
09. Venezuela 1
10. Guitar Systemised
11. Venezuela 2
12. Bolivia

Personnel:
David Cunningham : piano, glockenspiel, synthesizer, percussion, violin, bass, recorder, tape ecorders, water, strings
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Stephen Reynolds : glockenspiel, piano, synthesizer
Alan Hudson : bass, percussion
Derek Roberts : piano, glockenspiel
Michael Doherty : percussion