フランク・ザッパのマザーズ・オブ・インヴェンション初のベスト・アルバムです。マザーズの最初の三枚のアルバムから選曲された初期のものですが、ザッパ先生の公式ベスト・アルバムが次に発表されるには実に28年も待たなければなりませんでした。

 しかも、この作品は2009年にダウンロード販売されたものの、CD化されたのは2012年になってからで、ザッパ先生の公式アルバムとしては最後にCD化されたことになります。ベスト盤というものに対する先生の冷淡な態度が如実に表れています。

 本作品は当時のレコード会社ヴァーヴとの契約を終わらせるために合意された条件の一つだったのでした。そのため、ザッパ先生は本作の版権にはまるで無頓着でした。ともあれ、全世界のファンの待望久しかった作品がようやくCD化されたのは嬉しい限りです。

 この頃、マザーズ自身は係わっていないベスト盤が何と11種類も発売されていたのだそうです。「マザーマニア」の制作はそれに対抗する試みでもありました。後の「ビート・ザ・ブート」シリーズと同じ発想です。昔はレコード会社による独自ベスト盤はたくさんありましたよね。

 ザッパ先生のことですから、本作品はもちろん単なるベスト盤ではありません。全部で11曲収録されていますけれども、このうち5曲は新しいミックスが収録されており、とりわけ「コール・エニイ・ベジタブル」にはかなり大幅に手が加えられています。

 ざっくりいうと、「フリーク・アウト」からの楽曲はステレオでのミックス違い、「おかしな世界」はモノラルのミックス違い、「自由な世界」からの曲は「コール・エニイ・ベジタブル」を除いてオリジナル通りとなっています。モノとステレオの混在時代を反映しています。

 さらに「フリーク・アウト」では「ヘルプ・アイム・ア・ロック」の一部だった「イット・キャン・ハップン・ヒヤー」がここでは独立した楽曲として収録されています。後に「フリーク・アウト」の決定盤では、「マザーマニア」を踏襲して別曲とされました。

 「フリーク・アウト」楽曲の新ミックスは、オリジナルが時代を感じさせる録音だったのに対し、やや時代を下って洗練された音になっています。この印象が全体を覆っていて、オリジナル通りの曲まで何となく新ミックスのような気になるのが面白いところです。

 デビュー作の一丁目一番地に置かれていた「ハングリー・フリークス・ダディ」が10曲目に登場するなど、ザッパ先生が指定した曲順は何だか新鮮に響きます。3枚のアルバムは随分と感じが違いますが、ここではそう感じませんから、選曲と曲順にはこだわったのでしょう。

 曲の方は何をかいわんや、いずれ劣らぬ名曲揃いですから、外れはありません。むしろ、細かなミックス違いをききわけようとするマニア心で忙しくて、ゆっくり聴いていられないので、それがまた変な感触を生んでさらに面白い。好循環なのか悪循環なのか。

 それにしてもこのジャケット、汚いです。ここまでむさくるしい男たちの写真を見たことがあるでしょうか。このむさくるしさがマザーズ・オブ・インヴェンションの愛すべきイメージです。彼らのベスト・ショットで彩られているとは、まさにベスト盤に相応しいです。

*2017年1月1日の記事を書き直しました。

Mothermania / The Mothers (1969 Verve) #007



Tracks:
01. Brown Shoes Don't Make It
02. Mother People
03. Duke Of Prunes
04. Call Any Vegetable
05. The Idiot Bastard Son
06. It Can't Happen Here
07. You're Probably Wondering Why I'm Here
08. Who Are The Brain Police?
09. Plastic People
10. Hungry Freaks, Daddy
11. America Drinks & Goes Home

Personnel:
Frank Zappa
Jimmy Carl Black
Don Preston
Bunk Gardner
Euclid James Sherwood
Ian Underwood
Roy Estrada
Arthur Tripp