加藤和彦は2枚のソロ・アルバムを発表した後、ようやくロック・バンドを結成しました。サディスティック・ミカ・バンドです。直接のきっかけはロンドンで遊んでいる時に、Tレックスやデヴィッド・ボウイ、さらにはロキシー・ミュージックを見たことだそうです。

 いわゆるグラム・ロックです。この当時はボウイもロキシーもまだ駆け出しの頃ですから、ロックの最先端というところです。加藤はそのかっこよさに感銘を受けて、「こういうの日本でもやりたいと」思って、さっそく結成したのがサディスティック・ミカ・バンドです。

 バンド名はジョン・レノンとオノ・ヨーコのプラスティック・オノ・バンドにちなんで付けられました。「そういう夫婦バンドって無いじゃない」と計算高さを発揮して、加藤夫人であるミカさんを前面に立てることとしたそうで、まあ「その日暮らしの思いつき」です。いいですね。

 当初は、加藤夫妻につのだひろとギターの高中正義の四人でした。この四人でシングル「サイクリング・ブギ」を発表したものの、まだグラムの感化を受けていないと感じた加藤は、ベースの小原礼に声をかけ、小原がつのだに代わるドラマー高橋幸宏を連れてきます。

 こうして5人組のサディスティック・ミカ・バンドが誕生します。何やらスーパーグループのような顔ぶれですが、この当時は加藤以外はまだ無名のミュージシャンです。そのためか、東芝はオーソライズせず、最初は加藤和彦とサディスティック・ミカ・バンドとなっていたそうです。

 ともかく、この5人組によるデビュー・アルバムが本作品です。当時の帯には「ムーグ野郎のギンガム集団、アロハのドーナツ ロンドン帰りのサディスティック・ミカ・バンド 将軍・加藤和彦の底知れぬ世界!!」と珍妙な宣伝文句が入っていました。

 ちなみにギンガムは当時加藤が作っていたPA会社の名前、ドーナツは東芝のレーベル名です。さらにこのアルバムにはシングル盤が付録についており、最初のシングル「サイクリング・ブギ」と「レコーディング・データ、カメちゃんのレポート」が収録されていました。

 本作品は、加藤の思惑通り、当時のイギリスのロックの香りを色濃く漂わせる素敵な作品になりました。フォークルやソロ時代とは異なり、正面から堂々とロックです。それもアメリカのロックではなく、都会的なサウンドのかっこいいロック・アルバムです。

 シンセサイザーの使い方にも習熟してきたようですし、各メンバーの演奏もこれがデビュー作品とは思えない堪能ぶり。それに全員がボーカルもとれる強みもあります。松山猛の作詞はあいかわらずのはっちゃけぶりで、変にシリアスにならないところがいいです。

 素人だったミカのボーカルはほんの少ししか聴かれませんし、非難されるいわれはないにもかかわらず、ライヴではフォークル・ファンと対立したそうです。当時の日本のフォーク/ロック界は偏狭でした。疎外されていた田舎の少年にはミカ・バンドの方が近い存在でした。

 この作品は日本では売れませんでしたが、イギリスでも発売されており、そこそこ注目を集めることになりました。いずれも後に大きな活躍をするメンバーたちの原点にして、当時の日本のシーンでは頭抜けた作品です。もう少しヒットしてもよかったのに残念です。

Sadistic Mika Band / Sadistic Mika Band (1973 ドーナツ)

参照:「エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る」牧村憲一監修(スペース・シャワー・ブックス)



Tracks:
01. ダンス・ハ・スンダ
02. 怪傑シルヴァー・チャイルド
03. 宇宙時計
04. シトロン・ガール:金牛座流星群に歌いつがれた恋歌
05. 影絵小屋
06. 空の果てに腰かけて
07. 銀河列車
08. アリエヌ共和国
09. 恋のミルキー・ウェイ
10. ピクニック・ブギ
11. サイクリング・ブギ

Personnel:
加藤和彦 : vocal, guitar, synthesizer
ミカ : vocal
高中正義 : guitar, synthesizer, vocal
小原礼 : bass, vocal
高橋幸宏 : drums, vocal
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今井裕
重実博
小田和正
Steaven Israel