U2は前作「ソングス・オブ・イノセンス」を発表した際に、その対となる作品が存在することを明かしていました。本作品「ソングス・オブ・エクスペリエンス」がそれですけれども、発表には前作から3年もの時間がかかっています。連作だと忘れた頃の発表です。

 この間、ボノは自転車事故で大けがをしています。さらにブレクジットやトランプ大統領の登場など世界情勢が激変する中で、かなり出来上がっていた作品を見直しています。そのことが発売が遅れた原因だということです。いかにもU2らしい振る舞いです。

 ジャケットにはボノの息子さんとジ・エッジの娘さんが手をつないで立っています。デビュー作や「WAR」のジャケット・センスを思い起こさせます。一方で、この写真は何となく難民を思わせます。写真家アントン・コービンによるモノクローム写真は饒舌です。

 本作品もU2の作品らしい堂々たるロック・アルバムです。今やアメリカ一のラッパーであるケンドリック・ラマーやレディー・ガガ、ジュリアン・レノンにハイムなど名だたるゲストが参加していますけれども、U2の世界にしっかりと組み込まれています。

 ボートラでカイゴやジャックナイフ・リーによるリミックスが収録されています。エレクトロニクス仕様になっているこれらの楽曲はかなり異質に聴こえます。そのことはアルバムが堂々たるU2仕様になっている証拠でもあります。だからこそボートラなのでしょう。

 収録された楽曲は「オーディエンスみんなに宛てた手紙である。僕らは曲を産み落とす。けれどもそれに生命や意味を与えるのは、僕らのオーディエンスなのだ。」とボノは書いています。アーティストとオーディエンスの関係は「途方もないロマンス」なのだと。

 日本盤の帯には「ロックは世界の光となる。ロックは未来の光となる。」と書かれています。それに、ボノは曲の中で♪ユー・アー・ロックンロール!ユー・アンド・アイ・アー・ロックンロール!♪と歌っています。「世界最大のバンド」のロックはとてつもなく重いです。

 1970年代、1980年代に青春を過ごした者にとって、ロックは世界であり、未来であるという惹句は身に染みます。あの頃、確かにロックは輝いていました。今となっては消えつつある幻のようなそんな想いをU2は一身に背負っているように思えます。

 このアルバムには三種類のブックレットが挿入されています。一つは歌詞を記載したもの、もう一つはクレジットとともにボノによる長文のエッセイが掲載したもの、三つめはそれらの日本語訳とロッキング・オンの宮嵜広司の長文ライナーが収録されています。

 ロックへの想いがあふれるこれらのブックレットを眺めるだけで、生半可な気持ちでこの作品を聴くわけにはいかないと思わされます。そんなところに今のU2は立っています。またそのことを納得させるだけの貫禄を備えたU2節を聴かせてくれています。

 アルバムはまたまた全米1位を獲得したほか、世界各国でそれなりに大ヒットを記録しました。以前の作品のようなモンスター・ヒットにはなっていませんけれども、「ロック」の世界ではもはや神格化された存在になっているように思います。ロックはまだ死なず、でしょうか。

Songs Of Experience / U2 (2017 Interscope)



Tracks:
01. Love Is All We Have Left
02. Lights Of Home
03. You're The Best Thing About Me
04. Get Out Of Your Own Way
05. American Soul
06. Summer Of Love
07. Red Flag Day
08. The Showman (Little More Better)
09. The Little Things That Give You Away
10. Landlady
11. The Blackout
12. Love Is Bigger Than Anything In Its Way
13. 13 (There Is A Light)
(bonus)
14. Ordinary Love (extraordinary mix)
15. Book Of Your Heart
16. Lights Of Home (St. Peter's String version)
17. You're The Best Thing About Me (U2 vs Kygo)
18. The Blackout (Jacknife Lee remix)

Personnel:
Bono : vocal
The Edge : guitar, vocal, keyboards
Adam Clayton : bass
Larry Mullen Jr. : drums, percussion
***
Jacknife Lee : keyboards, guitar, programming, chorus
Ryan Tedder : programming, chorus, keyboards, guitar
Brent Kutzle : programming, keyboards, guitar
Andy Barlow, Paul Epworth : programming, keyboards
Haim, Kendrick Lamar, Lady Gaga, Julian Lennon : chorus
Jolyon Thomas : guitar, keyboards
Noel Zancanella : programming
Nate Lotz, Steve Wilmot : percussion
Declan Gaffney, Andrew Taggart, Goshua Usov : keyboards
Brandon Collins : string arrangement
Davide Rossi : strings
Amy Helman, Avery Bright : violin
Betsy Lamb : viola
Paul Nelson : cello
Dawn Kenny : additional credit