グレイトフル・デッドの「イン・ザ・ダーク」はスタジオ・アルバムとしては「ゴー・トゥ・ヘヴン」以来、7年ぶりとなる作品です。ライヴ・アルバムを含めても6年ぶり、久しぶりのアルバムです。まだやっていたのか、とまずは思ってしまいました。

 とはいえ、アルバムを発表していなかっただけで、デッドはツアー漬けの忙しい毎日を送っており、全米で最も稼ぐアーティストの一つであり続けていました。普通のアーティストとは歩んでいる道が違うわけで、アメリカ以外ではその消息がつかみにくかったのです。

 デッドは1984年にもスタジオ入りしてアルバムの制作を試みましたが、見事にやる気が出ずに失敗しています。しかし、1986年にジェリー・ガルシアが糖尿病のせいで昏睡状態に陥り、生死の境をさまようことになると、復活、再生という言葉が浮かんでまいります。

 そうしてデッドは1987年1月にアルバム制作のためにスタジオ入りしました。すでにツアーにて多くの新曲が演奏されており、収録曲に困ることもありません。また、今回はオーディトリアムを借りて、ベーシック・トラックをライヴで収録する手法をとりました。

 プロデュースも長年のエンジニア、ジョン・カトラーの助力を得てガルシア自身が担当しています。こうして、久しぶりのスタジオ・アルバム「イン・ザ・ダーク」は気合の入った力作となったのでした。しかし、まさかここまで売れるとは誰が予想したことでしょう。

 アルバムは全米6位の大ヒットとなり、シングル・カットされた「タッチ・オブ・グレイ」もトップ10入りしています。デッドらしく骸骨が演奏するMVもMTVでヘビロテされ、日本にも流れてきました。時ならぬヒットはデッドのライヴにさらに聴衆を引き付けることにもなりました。

 「タッチ・オブ・グレイ」は、♪私たちは何とか生きていく、生き残るんだ♪という歌詞が印象的で、てっきり病気の後の歌かと思ってしまいますが、実は早くも1982年には演奏されています。時が歌に深遠な意味を与えることがあるという好例です。

 この曲を始め、全曲が力作です。特に加入して10年近くたって、バンドとすっかり一体化したブレント・ミッドランドの貢献が光ります。ここでは「トンズ・オブ・スティール」、ボブ・ウィアとの共作「ヘル・イン・ア・バケット」を提供しており、力強いボーカルもいい感じです。

 この頃にはガルシアの曲にはロバート・ハンター、ウィアとの曲にはジョン・バーロウが作詞する分担が確立しているようです。ガルシアの曲は4曲、とりわけ「タッチ・オブ・グレイ」と最後のゆったりしたバラード「ブラック・マディ・リヴァー」が輝いています。

 この年、デッドはまだレコード・デビューして20年にすぎません。しかし、彼らほどアメリカの歴史を背負ったバンドはありません。まるで宗教のようだといわれる強固なコミュニティーが存在し、アメリカ中を旅してまわる姿は大西部開拓時代を思わせます。アメリカの心です。

 そのデッドの姿を世間一般に印象付けたのが本作品だといえます。デッドの存在に改めて光が当たり、とりわけアメリカ国外には衝撃を与えたものと思います。私も若い頃に聴いていたことを思い出して、再びデッドにはまることになってしまいました。

In The Dark / Grateful Dead (1987 Arista)

*2011年10月12日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Touch Of Grey
02. Hell In A Bucket
03. When Push Comes To Shove
04. West L.A. Fadeaway
05. Tons Of Steel
06. Throwing Stones
07. Black Muddy River
(bonus)
08. My Brother Esau (single B side)
09. West L.A. Fadeaway (alternate version 1984)
10. Black Muddy River (studio rehearsal)
11. When Push Comes To Shove (studio rehearsal)
12. Touch Of Grey (studio rehearsal)
13. Throwing Stones (live)

Personnel:
Jerry Garcia
Mickey Hart
Bill Kreutzmann
Phil Lesh
Brent Mydland
Bob Weir