フランク・ザッパ先生の2枚目のアルバムです。デビュー盤とは随分と音の感触が異なります。演奏というよりも録音の問題です。この2枚のアルバムの間に録音技術の飛躍的な進歩があったのではないかと思わるくらい、サウンドがシャープになっています。

 こちらのアルバムは一応15曲入りとなっています。CDでは両面の間にシングル曲2曲がボーナス・トラックとして追加されていますので、オリジナルは全体で13曲です。ですが、A面B面にはそれぞれにテーマが設定してあって、切れ目がありません。これは全2曲です。

 全体で一つと言いながらも、個々に分割しても名曲ぞろいです。後のライブで定番となる「コール・エニイ・ベジタブル」やレコード会社ともめた問題作「ブラウン・シューズ・ドント・メイク・イット」などの有名曲が並んでいて、シングル聴きも、もちろん可能です。

 なかでも3トラックを費やす「デューク・オブ・プルーンズ」(すもも公爵組曲)は傑作です。私は、ザッパ先生の生み出すメロディーにメロメロなのですが、この曲はその中でも特に素晴らしい。流れるようなメロディーが私を溶かしてくれます。気持ちがいいです。

 この曲は歌詞も素晴らしいです。くだらないと言えばこれ以上くだらない歌詞はありません。♪すももを貫く6月の月の光が君の胸の可愛いお豆さんを露わにする♪ですから。余談ですが、♪ムーン・イン・ジューン♪は英語の韻としては定番中の定番です。

 そんな風に全体に「大きい足のエマ」とか「野菜を呼んでみな」とかナンセンスな歌詞が多いのですけれども、この作品は全体的にアメリカ社会について考えさせられるものにもなっています。その意味では彼のアルバムでは最も政治的な度合いが強い一枚かもしれません。

 直截なメッセージを歌詞に託すわけではなく、彼が描き出す情景の一つ一つがアメリカ社会を描き出しています。心情を吐露する詩というよりもルポルタージュ的な歌詞です。そして歌詞よりも音の組み立て方が世界を描き出す。そこもザッパ先生の素敵なところです。

 1960年代後半のアメリカ社会は今よりもずっと管理社会だった模様です。世界全体の傾向ではありましたが、アメリカだけは自由な国だと思っていました。しかし、政府は情報を操作し、若者文化さえ操っていたといいます。もともと宗教社会ですからね。

 そんなことをつい考えてしまいましたが、先生の純度の高い音楽はここでもとても美しいです。アヴァンギャルドでありながら、全体はポップにまとまっていますし、音の重ね方が素敵です。メンバーもデビュー盤から比べると数が増えて音が多彩になりました。

 さりげなく「ルイ・ルイ」に始まるさまざまな大衆音楽の断片が組み込まれていたり、ストラヴィンスキーやドビュッシー、ホルストなどの曲が引用されるなど、ザッパ先生の作る曲は自由度がとても高いです。すでにして室内楽的な印象が立ち現れてきます。

 バンドの中ではバンク・ガードナーのサックス類が素敵です。最初のCD再発の時にはジャケットからガードナー他のメンバー写真が消されていたり、権利関係が複雑だったようですが、このザッパ承認最終版ではちゃんと復活しています。ファンとしてはほっとしました。 

Absolutely Free / The Mothers Of Invention (1967 Verve) #002

*2011年4月17日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Plastic People
02. The Duke Of Prunes
03. Amnesia Vivace
04. The Duke Regains His Chops
05. Call Any Vegetable
06. Invocation & Ritual Dance Of The Young Pumpkin
07. Soft-Sell Conclusion
08. Big Leg Emma (bonus)
09. Why Don'tcha Do Me Right? (bonus)
10. America Drinks
11. Status Back Baby
12. Uncle Bernie's Farm
13. Son Of Suzy Creamcheese
14. Brown Shoes Don't Make It
15. America Drinks & Goes Home

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal
Ray Collins : vocal, tambourine, PRUNE
Jim Fielder : guitar, piano
Don Preston : keyboards
Bunk Gardner : woodwinds
Roy Estrada : bass, vocal
Jim Black : drums, vocals
Billy Mundi : drums, percussion
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John Balkin : bass