ピーター・フランプトンは、予期せぬ特大ヒットとなった「フランプトン・カムズ・アライヴ」に続く作品を制作するにあたって、大変な苦労をしたそうです。しかし、その苦労も報われ、「アイム・イン・ユー」は無事に大ヒット作品となりました。ほっとしたことでしょう。

 このジャケットを見てください。「カムズ・アライヴ」以前の作品とはテイストがまるで異なります。スーパースターの風格というのでしょうか。容姿に恵まれたアーティストであることを前面に押し出したジャケ写です。着ている服も上等な生地でできています。

 しかし、フランプトンはアイドル視されることに抗っていたはずです。ここへ来てそんなことも言っていられなくなったのでしょう。レコード会社からのプレッシャーもあったはずです。とはいえ、タイトル曲のアイドルぶりはやや行き過ぎの感があります。

 当時見たビデオの一つでは、フランプトンが♪アイム・イン・ユー♪と歌うところで、腕を伸ばして観客席を指し、それを右から左へと動かしていきます。すると指さされた観客からの嬌声が腕の動きとともに波打っていきます。超絶アイドル仕様です。

 そしてこの歌は歌詞が問題です。取りようによっては卑猥だとしてザッパ先生が盛んに揶揄していました。ロックの歌詞が若者に悪影響を与えるとの批判が強まり始めた頃でした。ヘビメタやパンクはやり玉に挙げられましたが、アイドルの歌はいいのか、という問題意識です。

 とはいえ、このアルバムでアイドル然としているのは「アイム・イン・ユー」くらいなものです。フランプトンお得意のバラード「愛に満たされて」も、アイドル仕様というよりも「カムズ・アライヴ」以前の作品と見事に地続きな曲で、媚びた感じは一切ありません。

 演奏しているミュージシャンは「カムズ・アライヴ」の面々、すなわちボブ・メイヨ、スタンリー・シェルドン、ジョン・シオモスにフランプトンを加えたカルテットです。よほど相性が良かったのでしょう。大変息のあった演奏を聴かせてくれます。とてもいい感じです。

 ゲストで特筆されるべきはリトル・フィートのリッチー・ヘイワードです。ヘイワードは3曲に参加しており、とりわけ8分に及ぶ大曲「ビー・マイ・フレンド」でのコンガが話題です。この曲はフランプトンがリトル・フィートに捧げた曲で、確かにリトル・フィート風です。

 忘れてはならないのはスティーヴィー・ワンダーです。1曲だけハーモニカでの参加なのですが、本作品にはスティーヴィーの「涙をとどけて」の素晴らしいカバーが含まれていますから、貢献度が大きい気がします。この曲はシングル・カットされてトップ20ヒットになりました。

 ついでにスティーヴィーと共にミック・ジャガーがスタジオに来たそうで、数曲にコーラスで参加しているといわれています。クレジットもありませんが、「愛はどこに」の歌声などはまぎれもなくミックです。大ヒットを放つとこういうことが起こりがちです。セレブな雰囲気ですね。

 「アイム・イン・ユー」に引きずられますが、「涙をとどけて」のはつらつとしたサウンドや、粘っこいリズムの「ビー・マイ・フレンド」など聴きどころも多いです。フランプトンの実力が発揮されたいい作品なので、ことさらなアイドル仕様が必要だったのか疑問ではあります。

I'm In You / Peter Frampton (1977 A&M)



Tracks:
01. I'm In You
02. (Putting My) Heart On The Line
03. St. Thomas (Don't You Know How I Feel)
04. Won't You Be My Friend
05. You Don't Have To Worry 愛に満たされて
06. Tried To Love 愛はどこに
07. Rocky's Hot Club すてきなロッキー
08. (I'm A) Road Runner
09. Signed, Sealed, Delivered (I'm Yours) 涙をとどけて

Personnel:
Peter Frampton : vocal, guitar
***
Bob Mayo : synthesizer, piano, guitar, chorus
Stanley Sheldon : bass
John Siomos : drums, tambourine, cabasa
Richie Hayward : drums, congas
Stevie Wonder : harmonica
Mike Finnegan : chorus