ジャジューカはモロッコ北部にある村の名前です。この村では1000年の歴史を誇るスーフィズムの音楽が今に至るも息づいています。そういう村は世界にはいくらもあるのではないかと思いますが、この村はその中でも飛びぬけて有名になっています。

 ジャジューカの音楽はまず1950年代にアメリカのビート・ジェネレーションの間で有名になります。ウィリアム・バロウズがその音楽家たちをマスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカと呼びはじめたそうですし、ティモシー・リアリーなども彼らに言及しています。

 そして何と言っても極めつけはローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズです。ジョーンズはジャジューカに赴き、彼らの音楽を録音しており、1971年には「ジャジューカ」として発表しました。このことがジャジューカの音楽を世界に広く知らしめることになりました。

 時は下って2000年、今度はイギリスのクラブ・ミュージック系のプロデューサー、タルヴィン・シンによってジャジューカの音楽がアルバムにまとめられ、「マスター・ミュージシャンズ・オブ・ジャジューカ・フィーチャリング・バシール・アタール」として発表されました。

 ジャジューカのミュージシャンはジョーンズ時代の後、「Jajouka」と「Joujouka」の二つに分裂しており、こちらはジョーンズ時代のリーダーの息子であるバシール・アタールが率いるグループ「Jajouka」の方です。ややこしいことこの上ありません。

 ここではジャジューカはバシールを含め13人のミュージシャンから構成されています。パーカッションや弦楽器、吹奏楽器など多彩な楽器を使用して、イスラームらしい音を奏でる彼らのサウンドはしばしばトランス・ミュージックと表現されることがあります。

 一方、タルヴィン・シンはインドの伝統音楽とドラムンベースなどを融合して、アジアン・アンダーグラウンドのアーティストとして頭角を現していました。そのデビュー作が1999年に英国で権威のあるマーキュリー賞を受賞しましたし、マドンナのアルバムにも参加しています。

 シンはジャジューカ村に何か月もこもって本作品に取り組みました。この作品では、約半分がジャジューカのミュージシャンだけによる演奏で占められています。アタール・ファミリーの女性たちによる歌も含まれており、伝統的なジャジューカの音楽を聴くことができます。

 残りの半分はというと、ジャジューカのリーダー、バシールとシンおよびその仲間たちとのセッションが収録されています。バシールはホーンやフルートを演奏しており、シンたちはタブラなども使いつつ、基本はエレクトロニクスによるトラックを組み合わせています。

 伝統音楽そのままと現代の音楽との融合の双方を塩梅よく配置した作品が企図されていることがよく分かります。バシール自身はジャジューカ勢とであってもシンたちとであっても変わることなく演奏しており、その柔軟性には目を見張るものがあります。何ら違和感がない。

 民族音楽とクラブ・ミュージックは相性がよいことは多くの作品が示しているところですが、本作品などはその最右翼に挙げられてもおかしくありません。エレクトロニクス・ビートによってジャジューカのもたらすトランスはさらに強化されているようです。

Master Musicians of Jajouka featuring Bachir Attar / Master Musicians of Jajouka (2000 Point)



Tracks:
01. Up To The Sky, Down To The Earth
02. The Truth Forever
03. Searching For Passion
04. Taksim
05. You Can Find The Feeling
06. The Blessing For The World From God Only
07. Jamming In London
08. The House Of Baraka
09. Above The Moon
10. The Magic Of Peace
11. The Magic Of Peace (remix)

Personnel:
Master Musicians Of Jajouka
(Bachir Attar, Abdullah Attar, Mustapha Attar, Abdullah Attar Sandoul, Hadj Mohamed Attar, Ali Rtoubi, Mohamed Attar Larbi, Moktar Gadhdal, Amin Attar, Ahmed Ethamdi, Tahir Boukzar)
The Women of the Attar family of Jajouka
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Talvin Singh : tabla, percussion, vocoder, keyboards, atomospheres, programming
Rony Barrak : percussion
Storms : bass
Brad Somatik : vocoder, programming, keyboards
Micke Walter : record scratching
Bryon Wallen : conch shell